Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

Ipmen最終日の様子

2010-07-29 | フィジーでの海洋教育者会議にて
Ipmen最終日には今回の集いを経て今後どのような取り組みを実施すべきか、話し合いがなされた。
様々な立場から提案があった。
海洋利用管理をどうするかについて、教育者として教育の立場から目指すべき方向が重要であるという意見に対して多くの賛同があった。海洋は資源の枯渇など大きな問題に直面している。このような問題を解決するためには教育であるということである。
この意見のあと前述のオーストラリアのイルカの海洋教育者により「まず私たちは、海の価値を高めるための取り組みをする必要があるのだと発言した。」これまでの教育実践の自信がみなぎっていた。
 この意見に対しては私もある意味賛成だ。なぜなら,海の価値が決して高くないからだ。一般的に,観光や商品など価値が高まらない(ようするに売れない)理由の一つは利用が一元的なものであるからである。 例えば,わざわざ時間をかけて出かけた旅行先に,訪問先がひとつだけだったらどうだろうか?おそらく,人間の心理はひとつの目的だけではそれなりの準備しか出来ないであろう。 しかし,あの場所に行くと,あれとこれとそれからあのような場所があり,そしてこのような未知なる体験ができる。というように多種多様な旅行商品を作ることによって観光客が集まり価値が高まるのである。これと同じように,海洋の利用についても同様のことが言えるだろう。 例えば,福井県小浜市の民宿の主人によると,魚の値段は40年前と殆ど変わらない。これは,海の利用が限られているからである。
 伝統も大切であるが,伝統とともに新しい価値を創出することが必要だ。お互いをよく理解することや,様々な合意形成(コンセンサス)が必要であるだろうが,これからの海洋との関わりを考えた場合大変重要なテーマなのである。

CNNの特集番組「ホエールウオーズ」

2010-07-26 | NMEA全米海洋教育者学会年会
テネシー州での最後の滞在を迎えテレビのスイッチをつけてみた。土曜の夜CNNの特集番組は「ホエールウオーズ」であった。ホエールを守るため命を捧げる勇士たちというテーマで全米で放映された。土曜日の9時といえば,ゴールデンタイムである。しかも,11時には再放送をやっていた。

なぜ,ポール・ワトソンは反捕鯨活動を命を賭して行うのか?ソビエトで行った捕鯨反対運動がきっかけであるという。非常に過激であり,非常識な行動を行う人物をCNNという大メディアがヒーローとして取り上げていた。

ボブバーカーは,今度の反捕鯨活動のために約5億円をポールに寄付した。ボブもヒーローの一人として登場した。彼らたちは,日本は,無駄なく鯨を取り扱っているというが,日本のスーパーに行くと鯨の肉が陳列されている。調査の名を借りた商業捕鯨である。伝統,文化だと言うが,何も南極まで取りに行かなくてもいい。鯨は海の中では非常に知能が発達している動物だ。人間に近いのだ。

また,ポールワトソンは次のように語った「今回の事故で,再三調査を要請したが日本は協力してくれない。日本はますます過激になっている。私たちはしっかりと戦う。」

この放送に対し、ポールワトソンを称賛するメールがHPに数多く寄せられた。しかし、中には、ワトソンを非難するメールもあった。ポールワトソンは、グリーンピースに所属していたが、あまりにも過激なので排除された。このような人物は決して良い結果を生まない。彼らは、日本の捕鯨船にアタックする前に、カナダの沿岸警備隊の船にも衝突した。

私たちは、このような過激な放送に対しどのような対応をとればいいのであろうか?今後捕鯨の問題はますますエスカレートするであろう。コーブやオーシャンズのように後手にならないようにしなくてはいけないのではないだろうか?疑心暗鬼に陥らず、しっかりとした平和的戦略を立てていくべきである。それともたかが海のことと思っているであろうか?世界中にいる日本人にとって、捕鯨は大きな問題である。外国人と話をすると必ず捕鯨について尋ねられる。太平洋諸国で魚を有史以前から食べていたインディジネスピープル(もともとそこに住んでいた人々)は日本に対し同情と好意を持ってくれるが、アメリカ、オーストラリアの人々の中には疑問視する人々が多い。なぜならば、海の幸をいただくという行為は、非日常的な行為である場合が多いからだ。捕鯨について問われた日本人はどのように答えているのだろうか?おそらく、海との深いかかわりを持ち、伝統的な食文化を持つ日本人として、まずしっかりとした回答をしなくてはいけない。水圏環境教育を日本のみならず海外において戦略的に実践し、発信していくことが必要ではないか。そのためには、新しい世界的な教育のネットワークシステムを構築する必要がある。教育を通して信頼関係を構築いくことが政治的な交渉と共に重要だと思う。教育は学校教育だけではなく、日本国の平和的戦略として省庁の枠を取り払い取り組むべきことなのである。

スモーキーマウンテンプレモント野外教育活動施設を訪問する。

2010-07-25 | NMEA全米海洋教育者学会年会
 スモーキーマウンテンは国立公園の中で一番訪問客の多い国立公園である。また,国立公園の中でも一番生物の種類の豊富な場所である。

 なぜそうなのか理由がわからなかったが実際に標高1500ftにある「スモーキーマウンテンプレモント野外教育施設」を訪れて驚いた(http://www.gsmit.org/)。スモーキーマウンテンの最高峰は6000ftもある。そして,日本の東海岸と同様に豊かな水に恵まれている。日本と異なることは,その規模である。
 
 私たちは,2つの教育プログラムを体験した。その一つが,サンショウウオの生態調査である。ちょうど黒森神社から流れてくるクリーク(小川)を想像して欲しい。とても小さい河川である。センターから歩いて10分のところにある。そこは,小石が積み上げられた川で水がさほど流れておらず,採集調査には最適である。

 エデュケーターのジェーンに案内され,サラマンダーの取り方を教えられる。絶対手を触れないように,ジップロックの中におびき寄せて取るように指示があった。小石を裏返すとサラマンダーを簡単に見つけることができた。陸上に住むサラマンダーを合わせ4種類を1時間のフィールドトリップで確認した。

 昼食後は,本流へ移動し水質調査,水生昆虫調査,魚類調査を実施した。川の状況は決して良いというわけではない。開発が進んでいるためであろう。ニューヨークからは車で8時間の場所にあるが,観光客が絶えない場所である。紅葉も美しい場所のようである。

 この施設は,宿泊もできる。日本で言うと環境省のビジターセンターと少年の家を合わせたような施設である。職員は全員がNPOに所属しているという。20名の職員がいるが12名がエデュケーターだ。

 スモーキーマウンテンでは,この他に生物の多様性を調べているグループがある。なぜ,多様性の研究が必要か?医薬品に使われるということ,そして多様性を調べることは,地球全体の気候変動を知ることができる。ATBI(all taxa biodiversity inventory) の調査で6582種類が発見されているという。http://www.jstor.org/pss/3496388 最終的に100,000種類が発見されたという。

全米海洋教育者学会の様子

2010-07-24 | NMEA全米海洋教育者学会年会
 本大会は,全米科学基準のフレームワークの検討の他,水族館,シーグラント,学校等における教育プログラムの紹介,並びに教育学的研究,教育の重要性に関する討論会,オーシャンリテラシーのこれからの方向性などが大きなテーマになっている。

 中でも注目されるのは,生態的適応をめぐる伝統知識(Traditional Ecological Knowledge :TEK)に関する発表やミーティングである。スモーキーマウンテン周辺,ミシシッピ川,マサチューセッツ州に住んでいるネイティブ・アメリカン,黒人の強制移住のストーリーテラーなどが招待され,それぞれのTEKを発表し合った。

 日本は,西洋の生態的知識(Western Ecological Knowedge : WEK)を持ちつつ,TEKを持ったネイティブの国であるという,大変特殊な国であり,WEKとTEKをつなぐ重要な役割を持っている国である。
 
 私の方からは,60分の時間を与えられ,我が国の水圏に関する教育の紹介を行ったが,中でもオーシャンリテラシーを元にしてTEKを取り入れた水圏環境リテラシーは大変注目を浴びた。日本の取組に対して,賞賛する声が多く,中でも,漁業と食文化が密接に関わっていること,675年から1875年まで陸上の動物が食べることが禁じられていたということに関して聴衆から驚きの声が上がった。また,海,山,川に恵まれた自然環境がさまざまな魚食の文化を生み,現在の江戸前寿司のような食文化が発達していることにも注目が集まった。

 TEKに関しては,日本の取組みに対し多くの国々の研究者や教育者そしてネイティブの方々が期待している。ネイティブの方々にそれぞれの国々のTEKを発表していただき,お互いのTEKを認識しあう機会を設けたいものである。

 また,日本の海藻食に関しても注目された。日本人は海藻を好んで食べる。本研究室の学生が実施した60分の東京湾の取り組みに関するワークショップでは,大森海苔のふるさと館で販売している焼き海苔を食していただく場面があったが,「海藻は魚が食べるもので人間が食べるものではない」という発言があるぐらい,特別に見られているようである。

 山口水産高校で実施している鉄炭ダンゴによる海藻を増やす実験にについて紹介したが,参加者から「このような取組は初めて聞いた。これは日本の独自の考えだ。日本の高校生は素晴らしい。」「バージニア州でも海藻が減っている。ぜひ,高校生の交換留学をしてはどうか?」という声が上がった。

 海藻をひとつとってみても,海藻の取組の中にはTEKの要素が含まれている。海藻を食べることは陸上からの流出した栄養分を循環させることにつながる。また,海藻を増やすための発想は,森が海の魚を育てるという魚付保安林からきている。このような日本では当たり前のように思っていることを,TEKであると認識することが今求められているのではないか?

全米科学教育基準フレームワーク

2010-07-23 | NMEA全米海洋教育者学会年会
ナショナルサイエンスアカデミーは全米科学教育基準フレームワークを公開した。190ページにわたるものである。
http://www7.nationalacademies.org/bose/Standards_Framework_Preliminary_Public_Draft.pdf
オーシャンリテラシー委員会ではクレッグストラングローレンス科学館副館長が今後の活動方針について説明した。GEMSという数学科学教育のテキストの著者の一人だ。リンゴと海など海洋科学の教材を担当している。
「地球宇宙,生命科学,物理化学,機械技術の4つがあるが,地球宇宙には25%の海洋に関する内容が盛り込まれた。これは良いニュースである。しかし,その他の3つの分野には海洋が入っていない。私たちは,他の3分野にも海洋が関わっていない部分を何とか関連があるようにできないものであろうか?なぜかといえば,海洋がすべての学問に関わっているからである。」
来週までに,フレームワークを読み,アンケートに回答をしようと呼びかけた。
「このフレームワークに海洋が盛り込まれたのは,10年の長い時間をかけて創り上げたオーシャンリテラシーの作成とそのカリキュラムの作成が大きな基礎になっている」「一番大切なことは,ネットワークが強固であるかどうかである。海洋教育者学会は全米に多くの海洋教育者研究者がいる。合わせて100人以上の研究者教育者が携わっている。その人々の大きなネートワークがこのフレームワークの改善に取り組むことが大きな力になるのである。」
 実際にオーシャンリテラシーを多くの人々と作成し運用しているのは,他の分野にない。クライメートリテラシーなどは15名程度で作成したという。強固なネットワークによって海洋教育が進められているところに大きな特徴があるようだ。

全米海洋教育者学会会長の重要な発表

2010-07-21 | NMEA全米海洋教育者学会年会
開会式で学会の会長があいさつを述べた。
「全米海洋審議会でも,私たち全米海洋教育者学会でも今まで再三にわたり申し入れてきたことだが,2005年にオーシャンリテラシーが作成されたことでついに,全米科学基準(日本における学習指導要領にあたる)のフレームワーク(概要)に海洋科学が盛り込まれることになった。」

 2002年から海洋リテラシーの作成するための会合を幾度も重ね2005年に完成したオーシャンリテラシーが,2010年に全米科学基準に盛り込まれることになったのである。
 もちろん,これは数年の努力ではない。1970年代から始まった全米海洋教育者学会の活動の積み重ねによりできたものである。
 詳しい内容は,今週発表されたばかりの全米科学基準のフレームワークをもとに検討され,全米海洋教育者学会としてひとつの意見を出すことになっている。水曜日の午前中に,オーシャンリテラシーの委員会が開催され意見が集約されることになっている。もちろん,本大会に参加していない会員もいるのでインターネットを駆使した会議が何度も開催されることになるである。

 内容が決定するのはまだ先のことであるが,海洋科学が正式に盛り込まれることになったことは,大変喜ばしいことである。ここで大切なのは,組織の力である。いくら法律が改正されてもそれを支える人材の交流(学会など),人材育成の仕組み(海洋科学を教えるしくみ),教育の仕組み(様々な地域の教育活動をとそれをつなぐ全国のネットワーク)を整えないとうまくいかないのである。

 果たして日本はどうであろうか?現在の状態で新しく海洋が盛り込まれたとしても,おそらく,総合的な学習の時間の二の舞になりかねないであろう。アメリカでは,実現のために40年の長い道のりがある。我が国もしっかりとした仕組みを整えていく必要があるであろう。

2010年度全米海洋教育者学会が開催されています

2010-07-20 | NMEA全米海洋教育者学会年会
 テネシー州ガトリンバーグにおいて2010年度の全米海洋教育者学会年会が開催されています。日本からは,学生2名と私合計3名が参加しています。私たちのプレゼンテーションは火曜日と木曜日に予定されています。他にも,ベルギー,メキシコ,オーストラリア,ニュージランド,グアム,ハワイ,本土以外からも参加者が集まっています。何回かにわたり,学会の様子をお伝えします。

ここはどこでしょう

2010-07-18 | Weblog
 一見すると陸中海岸国立公園のローソク岩かと思うと,実はそうではない。これはバハ・カルフォルニア半島の最南端にあるリゾート地である。

 ロサンゼルスからバハカリフォルニアの半島の最先端へ向けて出航する客船クルーズが人気のようだ。この付近には船で上陸できず,小型船で移動し奇岩を楽しむ。

 

オーストラリアでのイルカを通した海洋教育

2010-07-17 | フィジーでの海洋教育者会議にて
 「イルカというのは,天才的な知能を持った生物である。このような知能の高い生物は他にはいない。イルカと一緒に泳ぐことは,海を理解することにつながる。今日,イルカにとって良くない環境である。その良くない環境を作っているのは人間である。イルカをもっと理解することによって海の環境を守ることにもつながるのだ。」

 イルカを環境保護のシンボルにすることによって多くの人々が興味関心を高めることを狙いとしたプレゼンテーションであった。確かに,イルカを環境保護のシンボルとすることによって,多くの人々が海洋に目を向ける。彼によると,イルカを教材とすることによって海の価値が3-4割高まるという。なるほど,確かにワカサギなどの小型の魚類に比較すると大きな違いであるな,とは感じた。

 このような考えは,海を生活の場としていない人々のなせる技であろう。基本的に,海洋の生物は食べるものである。このことは,フィジーの子供たちとの会話で感じたことでもある。訪れた小学校の近くの浜辺に出向くと,子供たちが集まってきて「ここには,サメもいる。サメは恐ろしい動物だ。サメを食べたことがある?とても美味しいんだよ。特にヒレは美味しい。」と話してくれた。

 また,サイパンからきた古代技術でカヌーを操る船長は「私たちは,海に感謝し海の恵みをいただく。哺乳類であれ,いただけるものはいただく。食べることで,個体数が減ったということは感じない。マグロも沖合で漁獲するために,沿岸に逃げてくる。それを私たちが捕まえるのだ。」と語った。

 これに対して,海洋を生活の場としていない人々はどのように反応するであろうか?サメやカメを食べるとは考えられないことであろう。ましてや知能の高いイルカを海洋教育のシンボルとして生計を立てている人々にとって,教育の素材としての海洋の生き物を食べるということは許せないことなのである。先般のクジラに関する会議でも,オーストラリアが大反対した理由が伺える。

 ここに,我々人類にとって,教育というのは大きな力をもっているということである。教育というのはそれぞれ独自の文化を生み出すのだ。時間がかかるが,どんなものにも代えがたい人格を作るのである。そのような教育というのは,実は自然環境に大きな影響を受け,自然環境によって規定されているのだ。(ここで言う教育とは学校教育や社会教育,家庭教育あらゆる教育を含める)。

 このような自然環境の異なる国同士による大きな考えの違いは分かり合えるのであろうか?おそらく「教育」という活動を通して,お互いの立場の違いをよく理解し合うことから始める必要があるであろう。水圏環境リテラシー教育を推進する海洋リテラシー推進部門の果たす役割は大きいのである。