Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

2020.2 世界のIWATEを閉伊川から

2020-03-30 | 森川海に生きる人びと

 

連載7年目「森川海に住まう人々」

 2014年の国際環太平洋海洋教育者会議をきっかけにスタートした本連載は,今年で7年目を迎えることとなった。【写真①】関係者の皆様,そして読者の皆様に心から感謝申し上げる。森川海とつながって生きている人々に生活に焦点をあて,震災後の宮古の復興の可能性と森川海と人とのつながりの意味を探ってきたが,その思いは今なお広がりを見せている。なぜ,「森川海〜」なのか?契機となった3つの出来事を紹介する。

契機となった3つの出来事

 1つは,2011年夏ボストンのノースウエスタン大学での米国海洋教育学会である。当時は,2011.3.11の大震災直後であり,東京と岩手県沿岸部を週一で往復していた。沿岸部をまわり,危難所で食事提供等の手伝いをしていた。東京からピエロとともに,小学校を慰問したりもした。【写真②】

  アメリカの 友人たちが心配して毎日のように温かい励ましのメッセージを送ってくれていた。海外でも日本の津波のニュースが流れている中,海洋教育者として気が気でなかったのだろう。日本の津波の状況についての発表にも大勢の海洋教育者が聞きに来てくれた。彼らは,「海洋教育者は何をすべきなのか,どのような貢献が可能なのか」と真剣に考えていた。その議論は,世界中の海洋教育者の連携と情報共有であり,「国際環太平洋海洋教育者ネットワーク(IPMEN)会議の宮古開催」につながっていった。【写真③】

 2つ目は,津波で家内の実家が焼失後,帰省先が沿岸部から内陸部となり,内陸部の人々と話し合う機会が増えたこと。内陸部の人々からすると,三陸の海は,内陸からはかなり離れた遠い存在である事が理解できた。沿岸部のことは,別世界の出来事。なぜなら内陸部と沿岸部の間には,壮大な北上山地がそびえ立つ。同時に,それまで沿岸に住んでいた時に実感できなかった存在の意味を考えるようになった。北上山地は単なる巨大な壁ではない。意味を持って存在しているのだ,と。【写真④】

 3つ目は,地球研の共同研究員となり,文化人類学,環境社会学,土壌学,農学等の研究者と閉伊川流域に足を運び,区界,松倉,平津戸,川内,箱石,小国,蟇目,茂市,仮屋,和井内,蟇目,高浜,赤前,樫内,田老,山口など地元の方々から数多くの伝統的な知識を教えていただいたこと。そのことで,専門の海洋,河川,魚だけでなく,森,土壌など多様なつながりの存在を実感するようになった。森川海とともに生活する人々との交流,意見交換によって,今まで気づかなかった閉伊川流域と人々との関わり,そして自然の中での人と人とのつながりが手にとるように見えてきた。 【写真⑤】

 

点が線となり面となる

 このように東京〜三陸沿岸の往復で,難所の通過点にしか思えなかった北上山地は,貴重な宝の山であり,そこから流れ出る河川は,海へとつながり豊かにする。森川海での関わりの見えない「点」の出来事が「線」となり「面」となり,森川海と人とのつながりに帰着する。海だけでなく,海へとつながる北上山地全体を面として,全体を俯瞰的に見るアプローチが生命の営みを維持する。森川海と人とのつながりは,世界の人類にとって欠かせない自然財だ。世界全体の持続可能な社会のあり方の解決の糸口となる。と,気づきを与えてくれた7年間であった。【写真⑥】

2020年に訪れたい世界のトップ3「TOHOKU

 年末岩手日報の一面でも報じられていたが,いま世界中で東北地方に注目が集まっている。旅行ガイドブック「ロンリープラネット」誌は,2020年に訪れるべき世界の10地域で,東北が3位にランクインしたという。「豊かな自然やまつりなどの文化遺産,おもてなしにあふれている。冒険好きな人に最適な場所」と。

 アメリカのナショナルジオグラフィック誌も,東北を最高の旅行先世界25箇所の一つに選んだ。ナショジオ誌のすごいところは,全世界でそれぞれの国で編集され紹介されていることだ。オーストラリアの記事を見ると,ベスト25のうちの3番目に東北が紹介されている。緑豊かで豊富な水をたたえ夏でも涼しい北上山地は,最高の癒やしだ。そして,ナショジオ誌はこう綴る。「東京からわずか3時間以内に最高の不思議の国の金メダルを獲得するであろう。東北は6つの県からなり,手つかずの森林,渓谷,カルデラ湖,千年の寺院,神社,伝統的な祭り,潮風トレイル,降雪が多く安比高原は爽快」と。 

 

世界の大谷「IWATE」を発信

 昨年も,海外へ飛び回った。米国ニューハンプシャー州,カルフォルニア州,中国上海市,青島市,韓国浦項市,イタリアベネツィア市,台湾基隆市,宜蘭県8箇所であった。海外訪問の度にいわて文化大使の名刺が大活躍している【写真⑦】が,今までIWATEを知っている人に出会ったことがない。しかし,閉伊川の森川海体験活動の写真を見せると皆さんがあっと驚く。それは,美しい緑と清冽な透き通った閉伊川,そして美しい景観の浄土ヶ浜。この森川海で体験する親子の姿。海外誌が取り上げる理由はここにあるのだ。

 年末には,大谷翔平の特集番組で,キャスターがIWATEを紹介している場面があった。IWATEが世界のIWATEに近づいていることを予感した。果たしてIWATEの知名度が上がっているのか。今夏のハワイ訪問で確かめてみたい。

 

IOCユネスコ国際会議にて閉伊川を放映!!

 12月にはイタリアベネツィアのIOCユネスコ国際会議があった。IOCユネスコとは,ユネスコの海洋科学委員会を指す。世界中の活動家の人々が集まり自分たちの活動を紹介しあった。私も招待状をいただきアジアネットワークの代表として参加した。この会議では,SDGsを達成させるためにIOCユネスコとして何ができるかを話し合った。IOCユネスコは,SDGsを達成させるために,海洋リテラシー教育が必要であるとしてガイドブックを作成した。そのガイドブックは30カ国語に翻訳され世界中で使用されている。その中に,閉伊川の活動が盛り込まれているのだ(20181月参照)。今回も会議に呼ばれ,近年取り組んでいる流域のNCP201911月号参照)についてビデオを交えて紹介した。ビデオは,令和元年8月の森川海体験交流会の写真を3分間でまとめたもの。閉伊川源流の原生林,そこから流れ出る源流,草原と兜明神,小国川沿いの農村生活,ゆったり館前の川流れ体験と天然サクラマスの喫食,浄土ヶ浜での活動の紹介。「良い自然環境での感動的な体験活動は,良い感情を生み出し,良い感情は良い気づきを生み出します。その良い気づきは,良い考えを生み出します。良い考えは良い行動を生み出すのです。」と締めくくり,拍手喝采を浴びた。【写真⑧】ぜひ映像も御覧いただきたい。【写真⑨】

 

 


2020.3体験を通して育む「森,川,海のつながり意識」

2020-03-17 | 森川海に生きる人びと

「育(はぐく)む」という意味の気づき

1月29日〜2月4日まで6泊7日の日程で開催された第4回目となった日本台湾森川海体験交流会が岩手県宮古市閉伊川源流〜河口域にかけて開催された。今回4回目となり大切なことに気づいた。それは,育む(はぐくむ)という言葉の意味だ。育てる(そだてる)の意味と大きく異なることにも気がついた。そのようなことを気づかせてくれたのは,いつ訪れても変わることがない普遍的な自然の摂理を保つ「森川海の存在」だ。育むとは「親鳥が子供を羽でくるむ」という意味があるようだ。「森川海のつながり」の意識は,そのような健全な存在の中で育まれるものなのだ。子供を健全な大自然でくるみ,大事に育てること。それは,大人たちの重要な役割。その役割を何千にわたって実践しているの森川海の地元の人々だ。

 

毎日を記録する十字モデルワークシート

そのような気づきを感じたのは,「メモ帳」が記録した子どもたちの毎日の意識の変化である。ここでいう「メモ帳」とは科学的思考に沿い作られた「十字モデルワークシート」である。この十字モデルWSを用いて,現状認識,問題把握,仮設設定,結果考察,今後の課題に分けて,毎日の振り返りを記述してもらう。

源流での記述には,「水生昆虫をたくさん見つけた」という体験の喜びを記述したものや,「水生昆虫は魚の餌になるから大事」,「水生昆虫がきれいな環境でないと生きることが出来ない」あるいは,「森川海は私達につながっていて,守っていかなければならない環境だ」,といった体験を通して,今後どのようにしたら良いかという規範意識まで記述するものまである。

 さらに,閉伊川河口へと下り,魚市場での水揚げの様子や大きな魚の観察,浄土ヶ浜での自然体験とホテルでの食事を通して,「森の栄養源が川に入って、川の生物の栄養となり、そして海に流れ、魚を育む。そういう生物循環があって、私達は美味しい食べ物をいただくことができる」と,森林からの栄養が川を通して海へとつながっている事への実感が込められた記述が見られるようになる。ここで,台湾海洋大学のレイ・イエン教授のメモを紹介する。

1月29日

今朝, 子どもたちは東京行きのフライトを楽しみにしていました。日本チームは空港にてピックアップして, おにぎり, パン, ビスケットを用意してくれました。とても思いやりがありました。【写真①】

1月30日

東京の森川海を初めて体験, 朝食後, 東京駅に荷物を荷造りした後,品川駅からタクシーでヤマツピア桟橋へ。クルーザーに乗り品川から芝浦を経て浜離宮を見学し,その後港区古川沿いにさかのぼり森に囲まれた代々木公園で休息し,原宿新宿を経て東京駅に戻りました。新幹線に乗車し区界高原を目指しました。【写真②】

1月31日

子どもたちから最も期待されている雪のイベント。区界高原少年の自然の家で,宮古の最初の森ツアーです。山の雪を見て, 誰かが興奮しています。スキーの後は,水生生物観察です。水源は豊富な栄養素があり,イワナが産卵する場所でもあります。簡単な説明の後, 子供達に一人でサンプルを取らせ観察させました。【写真③】

学習会のあと,佐々木先生は,誕生日ケーキを用意してキャンドルを灯して,皆で誕生日のお祈りをしました。暖かく幸せな夜を過ごしました。【写真④】

2月1日

宮古駅に向けて出發。駅前にて,最も美味しいヤギミルクティー。 台湾に比べてちょっと高いけど(450日本円 台湾ドル150), 本当に美味しい。甘すぎず 羊の臭いなしの強いミルク味, タピオカもとっても非常に柔らかくておいしい!!! 【写真⑤】

 八木沢川を訪問し,生物採集調査を行いました。水はとてもきれいです。日本人は環境の持続可能性に非常に重要性を払っており,川の中のエコ環境は子供たち自身によって作られています。【写真⑥】

 ククナキッチンカーにて中華ランチをいただきました。311の津波後に地元の復興を願い活動されている姿に感動しました。【写真⑦】

 午後は,宮古魚市場へ。1. 衛生面,2. 親切な対応,3. 近代的設備,4. 漁業のプロ意識に大変感動を覚えました。【写真⑧】

1. 衛生への配慮: 誰もがレインシューズ, 帽子, 手洗いするステップに従わなければなりません. 海水と雨は消毒され海水を消毒しています. 漁獲物は地面に一つも落ちていません.
2. 親切な対応: 観光客や学生を研修生に歓迎するほか,スタッフも非常にフレンドリーで, レインシューズや帽子を持った観光客を歓迎してくれます. 皆さんフレンドリーで, 全体的な雰囲気がとても良いです. 誰もが笑顔で, 戦いの雰囲気はありません.
3. 近代的設備: 現金衛生と環境機器を除いて, すべてオンラインで, すべての漁船は非常にきれいです.港では, タブレット経由でオンライン情報によって, 漁獲状況を理解することができます. 各船がどれだけ漁獲したかわかるのです。また,セリ売りは透明性が高く, すぐに買った人を登録でき,そして, 永久に管理することもできます.
4. 漁業のプロ意識: 魚の組合の漁師や漁師に多くの若者が, 誰もが自分の職業を主張し, 漁業を尊敬する職業としています.

 その後ワカサギ釣り調査。誰も魚を釣っていませんが, 魚を捕まえるのは特別な経験で,夢中に釣りを楽しんでいます。【写真⑨】

2月2日

浄土ヶ浜では,貝殻を収集するほか, 子供たちはカモメに餌を与え喜んでいました。カモメの目はとても綺麗で,指先から上手に餌を食べていきます。【写真⑩】

 水産科学館に行きました。あまり大きくはありませんが, 宮古市の養殖,鮭に関する展示情報がたくさんあります。科学的情報に加え, 伝統文化や歴史がたくさんあり, 子供たちが遊ぶ場所もたくさんあります。【写真⑪】

 縄文の森ミュージアムのプロジェクションマッピングや展示には,初めて知る日本の歴史に触れることができ,とても感動しました。子供も大人もペンダントづくりに夢中です。【写真⑫】

浄土ヶ浜パークホテルの滞在は,感動でいっぱいでした。素晴らしいサービス,食べ物,環境は本当に機能できない, すべての部屋. 日本の最初の日の出を見て, 空間は快適で, 日本のホテルのおもてなしを感じさせる思いやりがたくさんあります。このレストランは間違いなくすべての友人に経験する価値があります。【写真⑬】

2月3日 

岩手県宮古駅前にて解散式が行われました。参加者は小学生6名,保護者7名合わせて13名でした。市長にも偶然お会いし記念写真を撮りました。【写真⑭】

子どもたちへの期待

最終日のリフレクションで「それぞれの生き物や環境がつながっている事に気づいた」と子供からも親御さんからも多数の発言が見られた。その発言の背景には,森川海のつながりの中での体験によって「森川海のつながり意識」が育まれたからだ。育むためには,育むための器が必要だ。閉伊川流域は,「森川海のつながり意識」を育む最高の器である。最良の器と一体となる活動によって,森川海のつながり意識が芽生え,自然と人のつながりを大事にするリーダーに育つことを期待したい。(育つには自律の意味があるようだ。)
 本活動を支えていただいた区界高原少年自然の家,閉伊川大学校,八木沢川を守り育てる会,水産科学館,縄文の森ミュージアム,宮古市魚市場はじめ宮古市の関係各位に感謝申し上げます。

(みやこわがまち2019年3月掲載を一部追加改編)


SECIモデルとラーニングサイクル SECIモデルの解釈

2020-03-05 | 教育心理

SECIモデルは,野中郁次郎一橋大学名誉教授が1980年代に提案した経営理論である。この理論をラーニングサイクルの立場から読み解いてみる。主体性を自ら持つこと,そして相手の主体性を尊重すること。主体性を持っている人びとはそれぞれ暗黙知を持っている。主体性がなければ,暗黙知も存在しないし,社会的な取組をしても自分のためにもならずまして相手のためにもならない。主体性がある仲間がいて初めて影響を受け合い切磋琢磨できる。 ラーニングサイクルでは,【導入】該当する。

 この時に大事なこと,それはどのような場で主体性を発揮させるか,場が重要である。場の意識を持って主体性を発揮すること。自分がどのような場をフィールドとしているのか,自覚すること。私の場合は,閉伊川でのワカサギ研究が場の主体性である。閉伊川というフィールド(場)があってワカサギ研究がスタートした。閉伊川がなければワカサギに出会うことはなかったし,今の研究の進展もなかったであろう。

 【探究】お互いの暗黙知を尊重し,共感し,共有し,社会化(Socialization)することによって,自分たちが取り組んでいるものが何なのかを表出化(Externalization)していく。この段階は,お互いに議論を深め概念を焦点化している段階でありラーニングサイクル理論の【探究】に該当する。

【概念の確信】共有された暗黙知は表出化され当該グループの形式知となり,協働(Collaboration)による新しい取り組みが生み出される。協働によって生み出された何らかの成果物は,グループ内で内部化(Internalization)され,新たなる形式知が作り上げられていく。その時,グループが作り出した成果物が外部からの評価を受け,クループの拡大にもつながる。この段階では,包括的な概念である水圏環境リテラシーと対比しながら学びを進化させている【概念の確信】に該当する。