映画「どちらを」を観た。
映画の中には説明過多な作品がある。そういう作品を観るとくどいなあと感じるし、場合によっては校長先生の話みたいに辟易してしまう。逆に説明が不足していると、物語の本質が掴めないまま、消化不良に終わってしまう。
本作品はそのいずれでもなく、すべてのシチュエーションはきちんと説明され、観客はそれを踏まえた上で、省略されたシーンについて考えることができる。謂わば観賞後の楽しみをお土産として残したような作品だ。
タイトルの通り、二者択一のシーンがいくつかあり、選んだシーンは短い暗転で省略されて、その次のシーンになる。どちらを選んだのかは、同じ映画を観た者同士で酒でも飲みながら話したら、さぞかし愉快に違いない。
黒木華はやっぱり上手だ。冒頭のスーパーで明太子選びに悩む様は生活が苦しいことを分かりやすく表現しているし、明太子を息子だけに食べさせるシーンから、愛情深い母親であることがわかる。黒木華自身はまだ29歳だが、40歳位の役も普通にこなせるのだと改めて感心した。
母親というのは畑みたいなもので、レイプされてできた子供でも、子供は子供だと愛情を籠めて育てることができる。育ったのは作物ではなくて人間だから、選択の自由を持っている。自分で選択できる年齢になったと判断して、息子に選択させるというのがこの作品の肝である。
ラストシーンの晴れやかな表情からして、息子がどのような選択をしたのかは明らかである。そして遡って、どちらの明太子を選んだのかもわかる。ほのぼのとした中にも人生の真実がある、傑作である。