ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ゴマダラチョウとアカボシゴマダラ

2021-09-16 20:43:49 | チョウ/タテハチョウ科

 ゴマダラチョウ Hestina persimilis (Westwood, [1850]) およびアカボシゴマダラ Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)コムラサキ亜科(Subfamily Apaturinae)ゴマダラチョウ属(Genus Hestina)で、ゴマダラチョウ属はこの2種である。コムラサキ亜科には他にコムラサキ Apatura metis Freyer, [1829] とオオムラサキ Sasakia charonda (Hewitson, [1863]) が属している。今回、同じエノキの木の下で吸水する両種を撮影した。尚、過去の撮影データを調べてみると、ゴマダラチョウは2010年8月にたったの1枚しか撮っておらず、今回が2度目の撮影であった。また、同じエノキに羽化不全の個体が1頭止まっていた。本種も季節型(春型・夏型・秋型)があるようなので、秋型であろう。

 ゴマダラチョウは、北海道の一部、本州、四国、九州のほぼ全域に分布し、地域ごとに成虫の大きさや斑紋、季節型などが分化している。食樹はニレ科のエノキであり、平地から山地の雑木林に生息している。クヌギ、コナラなどの樹液によく飛来し、オスは地表で吸水することも多い。
 アカボシゴマダラの基産地は、中国の広東である。和名通り後翅の外縁に赤の環状紋が並ぶのが特徴。本種は東アジアの広域分布種であり、ベトナム北部から中国、台湾、朝鮮半島まで分布し、日本では奄美大島とその周辺の島々だけに固有の亜種 Hestina assimilis shirakii Shirozu, 1955 が分布するが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として中国大陸産の名義タイプが確認された。数年間には神奈川県を中心とする関東地方南部でも確認され定着するようになる。2006年には東京都内でも発生し、2010年以降は千葉県、茨城県、栃木県、群馬県へと関東全域に分布を拡大し、近年では静岡県、山梨県でも目撃情報がある。
 なぜ、中国大陸産が突如出現したのか?これは、蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いといわれており、気候風土が好適であったために急激に個体数が増加したと考えられている。「在来蝶類との競合の可能性」が指摘され、2018年1月に「特定外来生物」(日本の在来生物の生態系や人体、農林水産業に悪影響を与える恐れがある国外由来の生物)として指定されている。

 同じエノキを食樹とする在来種ゴマダラチョウと駆除対象のアカボシゴマダラ。その生態はほとんど同じであるが、アカボシゴマダラの幼虫の方が、エノキの低木・幼木を好み、ゴマダラチョウの生育に悪影響を及ぼしたという具体的な例は報告されていない。また、野外での浸透性交雑の可能性は低いと考えられている。
 人為的放蝶によって繁殖している外来種のチョウは、アカボシゴマダラだけでなく「ホソオチョウ」も知られている。チョウ自らが移動して繁殖地を広げているならともかく、生息域から遠く離れた本来生息していない所に、人為的に放すことは生物地理学上行うべきではない。これは、チョウだけでなくホタルでも同様である。元来、北海道にはゲンジボタルは生息していないし、上高地に人為的に放され定着したゲンジボタルは駆除された。昆虫や植物に罪はなく、既に広範囲で定着し生態系に悪影響を及ぼす危険性が低い種を駆除する必要もないと思うが、人間の勝手な行為は慎むべきである。
 2021年8月現在、特定外来生物に指定された昆虫は25種類であり(環境省:特定外来生物等一覧)これら昆虫を無許可で飼育したり野外に放したりすると3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金となる。法人では最高1億円の罰金が科される。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ゴマダラチョウの写真

ゴマダラチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:03)

ゴマダラチョウの写真

ゴマダラチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 2000 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:03)

アカボシゴマダラの写真

アカボシゴマダラ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1000(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:04)

アカボシゴマダラの写真

アカボシゴマダラ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 640(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:05)

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