5月30日 編集手帳 読売新聞
{英国情報部に所属したこともあるスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレによれば、「 諜報 ( ちょうほう ) 界最古の格言」というのがあるらしい。〈きょうの友をスパイしておけ。彼らはかならずあすの敵になる〉(早川書房『スクールボーイ閣下』)◆多くの政治家を輩出した松下政経塾などで人脈を培ったところを見れば、“きょうの友”選びに知恵を巡らせたのだろう。警視庁公安部が在日中国大使館の1等書記官に出頭を要請した◆軍の情報機関「総参謀部」の出身で、外国人登録証明書を不正に使用したほか、諜報活動をしていた疑いが持たれている。書記官は要請を拒み、帰国した◆中国のスパイが要人1人と接触した際に所属組織から支給される資金が「原則1万円」とは、記事を読むまで知らなかった。経費削減の荒波はいずこも同じ…というつまらない感懐はさておき、書記官は不足分を自前で用意すべく、日本国内の企業から顧問料などを不正に得て工作資金に充てていたようである◆「友」の仮面の下に「敵」の 鎧 ( よろい ) がのぞく人は、何の獲物を狙っていたのだろう。解明されないうちは気持ちが悪いことこの上ない。}
外国人登録証明書を不正に使用したほか、諜報活動をしていた在日中国大使館の1等書記官は農産物の対中輸出促進事業に関する農林水産省の機密文書を得る目的で、中国の国有企業を日本側に紹介したりするなど、事業に深く関わっていたらしい。警視庁公安部は書記官の 諜報活動の一環だった可能性があるとみている。
{英国情報部に所属したこともあるスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレによれば、「 諜報 ( ちょうほう ) 界最古の格言」というのがあるらしい。〈きょうの友をスパイしておけ。彼らはかならずあすの敵になる〉(早川書房『スクールボーイ閣下』)◆多くの政治家を輩出した松下政経塾などで人脈を培ったところを見れば、“きょうの友”選びに知恵を巡らせたのだろう。警視庁公安部が在日中国大使館の1等書記官に出頭を要請した◆軍の情報機関「総参謀部」の出身で、外国人登録証明書を不正に使用したほか、諜報活動をしていた疑いが持たれている。書記官は要請を拒み、帰国した◆中国のスパイが要人1人と接触した際に所属組織から支給される資金が「原則1万円」とは、記事を読むまで知らなかった。経費削減の荒波はいずこも同じ…というつまらない感懐はさておき、書記官は不足分を自前で用意すべく、日本国内の企業から顧問料などを不正に得て工作資金に充てていたようである◆「友」の仮面の下に「敵」の 鎧 ( よろい ) がのぞく人は、何の獲物を狙っていたのだろう。解明されないうちは気持ちが悪いことこの上ない。}
外国人登録証明書を不正に使用したほか、諜報活動をしていた在日中国大使館の1等書記官は農産物の対中輸出促進事業に関する農林水産省の機密文書を得る目的で、中国の国有企業を日本側に紹介したりするなど、事業に深く関わっていたらしい。警視庁公安部は書記官の 諜報活動の一環だった可能性があるとみている。