和歌山県西牟婁郡白浜町久木
南紀へは今までに何十回も行っているけれど、その殆どが潮岬より東側で、西側といえばすさみ町くらいしか訪ねていない。
それがずっと気になってはいたのだが、魅力的な滝や風景は東部に多く、行きたい場所は次々に思い浮かぶのに、西部となると、さて、どこがいいだろう、といった状態だった。
特に白浜町は観光地のイメージが強く、惹かれる要素など見当たらなかったのだけど、今回訪ねた場所は、白浜町といっても旧日置川町で、こうなるとイメージは大きく変わる。
日置川流域は、西部では最も魅力的に思えるし、地図を見れば面白そうなところが幾つも見つかる。
ただ、その流域はかなり広範囲に亘っており、旧本宮町や、古座川の源流である大塔山にも及んでいて、一日や二日ではとてもそんなところまで周れないので、今回は比較的下流部にある、八草の滝の近辺を探索することにした。
というのも、この近くに、是非とも見てみたい滝があるからである。
国道42号線から日置川沿いの道に入り、まずは八草の滝を目指す。
日置川沿いは予想以上に鄙びた雰囲気で、途中にある「えびね温泉」の看板が目に付くくらい。
一方、八草の滝は日本の滝100選に入っているので、道中に看板くらいたくさん出ているだろうと思ったのだが、目立った看板は見当たらず、いつの間にか通り過ぎてしまっていた。
引き返して久木の集落近くに車をとめて歩き出す。
久木橋を渡らず、日置川の右岸にある未舗装の道に入る。
この辺り、断面が直線的で鋭利な石が多く転がっているので、車では入らないほうが無難だ。
やがて道がやや狭くなり、左手に岩が立ってくるようになると前方に素掘りの短いトンネルが見えてくる。
今は日置川の左岸に車道が通っているが、車社会になる以前はこちらが川沿いを行き来するルートであったらしい。
トンネルをくぐって振り返る。
とても短いけれど味わい深い。
今は山仕事の人とか私のような物好きしか通らないが、かつては重要な生活道だったのだろう。
道が二手に分かれ、八草の滝へは右の日置川沿いに続く道を行くのだが、まずは左へ進むことにする。
左はドン谷へと入っていく道で、この谷にも滝があるようなのだ。
道はもっと悪くなると思っていたのに、こんな切通しが現れてびっくりする。
改めて地形図を見てみると「庄川越」の記載があって、通常の山道とは違う等高線に沿うような勾配の緩いルートが描かれている。
白浜や田辺方面とを結ぶ道で、昔は荷車なども通って物資を運んだのだろう。
切通しの壁。
暫し、遠い過去の賑わいを思い描く。
道は谷川からやや離れた場所を通っており、流れの様子はあまり見えないので、右岸から鍋津呂谷が合流する手前付近で水辺に下りることにする。
滝のある険しいところは通り過ぎてしまっているようであるが、帰りに流れに沿って下ることにして、まずは上流に向かってみる。
滝というには落差が小さいが、この辺りの直線的な岩が特徴ある姿にしている。
平面状の岩も多く、艶のある光を反射する。
これ以上進んでも特に何も無さそうなので、引き返して鍋津呂谷の方にも入ってみる。
こちらにも小さい落差があったが、やはり岩が特徴的だ。
ドン谷に戻り、流れに沿って下っていくことにする。
小さな落差はあるものの、概ね穏やかな流れが続く。
やがて滝音が響いてきて、それなりの落差の滝が現れる。
滝を下りるのは無理だろうと思いきや、左岸の岩が見事に階段状だったので、簡単に滝下へ。
この滝、見る位置で表情がかなり変わる。
これは別の滝のようだけれど、真ん中の段を横から撮ったもの。
岩が、自然を模した人工物のような、それでいて人工物では出せない美しさを持っていて魅力的だ。
もっとじっくり撮りたい面白い滝だったが、時間があまり無いので先に進む。
平流の部分も捨て難い美しさがある。
ちょっと写真が傾いているようにも見えるけれど、流れの奥を見てもらえば判るように傾いているのは手前の岩である。
この谷、他にもこんな感じのところがあって、写真を撮っていると平衡感覚がおかしく思えることがあった。
こういう流れの雰囲気はとても好きだ。
再び滝音が響いてきて、前方がストンと切れ落ちている。
今度は下りるのは不可能で、下を覗けば井戸の底に吸い込まれるような迫力がある。
少し手前に崩壊した低い堰があり、そこから水路跡が伸びているので、それを辿ってみる。
岩を削り、切通しで水路が築かれている。
向こう側が谷川で、こちらに来ると滝音が更に大きく響いてきた。
岩の上には祠のようなものがあり、その横の石には名前らしき文字が刻まれている。
それにしても、これだけの手間をかけて切り開かれた水路に驚くと同時に、それが今は使われていないのが、何か寂しいような物悲しいような。
滝の全容が見えてきた。
まるで放水口から水を噴出しているダムのような姿だ。
水路跡に沿って進むつもりだったが、もっと滝の近くに行きたいと思い、もう少し下流から斜面を下りることにした。
流れに下り、滝に近づいていく。
岩が立ちはだかるように聳えて圧迫感がある。
あちこちに動物の糞があって、自然の真っ只中にいる気分だ。
斧で断ち割ったような岩に感嘆する。
ここも人工物のようでありながら、やはりその美しさに息を呑む。
岩の造形、映し出す光に見惚れる。
こんな滝が殆ど人に知られていないのだから、やはり南紀は凄い。
滝から下流は、また穏やかな流れになる。
少しの距離で、前方が明るく開けてきた。
日置川との合流地点だ。
暗く狭い谷間から、明るく伸びやかな日置川の河原を見るとホッとする。
暫くぼーっとしたいところだけど時間が無い。
既に夕暮れの気配が漂っているので八草の滝へ急ぐ。
日置川に沿った道を進むが、土砂が流れ出しているところなどあり、意外と険しい。
日置川から少し離れて暗い谷間に入ると八草の滝までは僅かだ。
滝の手前にはイヌマキの大木があって、祠もある。
そして八草の滝。
日本の滝100選の中では評価が低く、実際、地元もあまり宣伝している様子が無い。
落差は結構あるけれど、水量は少なめで、姿もぱっとしないとは思う。
岩がこの辺りの特徴を出していて個性的とは言えるのだが・・・。
雨後に水量が増えれば、もっと美しい姿なのだろうか。
ただ、殆どの人は日置川の対岸から遠望するのみで、滝下まで来て見る人は少ないようだ。
水量が少ないので遠望では更に見映えがしないし、それで評価するのはちょっと可哀想な気はする。
岩の反射の美しさなど、対岸からは全く判らないのだ。
それにこの岩の表情は、水量によって水の表情をも大きく変化させそうで、なかなか奥の深い滝なのではないだろうか。
かなり暗くなってきた道を急いで戻る。
明日に備えて、車中泊場所を探さねばならない。
2万5千分1地形図 富田
撮影日時 101021 14時10分~17時10分
駐車場 久木橋の東側にスペースあり。西側のスペースはバスの転回場所なので注意。
地図
南紀へは今までに何十回も行っているけれど、その殆どが潮岬より東側で、西側といえばすさみ町くらいしか訪ねていない。
それがずっと気になってはいたのだが、魅力的な滝や風景は東部に多く、行きたい場所は次々に思い浮かぶのに、西部となると、さて、どこがいいだろう、といった状態だった。
特に白浜町は観光地のイメージが強く、惹かれる要素など見当たらなかったのだけど、今回訪ねた場所は、白浜町といっても旧日置川町で、こうなるとイメージは大きく変わる。
日置川流域は、西部では最も魅力的に思えるし、地図を見れば面白そうなところが幾つも見つかる。
ただ、その流域はかなり広範囲に亘っており、旧本宮町や、古座川の源流である大塔山にも及んでいて、一日や二日ではとてもそんなところまで周れないので、今回は比較的下流部にある、八草の滝の近辺を探索することにした。
というのも、この近くに、是非とも見てみたい滝があるからである。
国道42号線から日置川沿いの道に入り、まずは八草の滝を目指す。
日置川沿いは予想以上に鄙びた雰囲気で、途中にある「えびね温泉」の看板が目に付くくらい。
一方、八草の滝は日本の滝100選に入っているので、道中に看板くらいたくさん出ているだろうと思ったのだが、目立った看板は見当たらず、いつの間にか通り過ぎてしまっていた。
引き返して久木の集落近くに車をとめて歩き出す。
久木橋を渡らず、日置川の右岸にある未舗装の道に入る。
この辺り、断面が直線的で鋭利な石が多く転がっているので、車では入らないほうが無難だ。
やがて道がやや狭くなり、左手に岩が立ってくるようになると前方に素掘りの短いトンネルが見えてくる。
今は日置川の左岸に車道が通っているが、車社会になる以前はこちらが川沿いを行き来するルートであったらしい。
トンネルをくぐって振り返る。
とても短いけれど味わい深い。
今は山仕事の人とか私のような物好きしか通らないが、かつては重要な生活道だったのだろう。
道が二手に分かれ、八草の滝へは右の日置川沿いに続く道を行くのだが、まずは左へ進むことにする。
左はドン谷へと入っていく道で、この谷にも滝があるようなのだ。
道はもっと悪くなると思っていたのに、こんな切通しが現れてびっくりする。
改めて地形図を見てみると「庄川越」の記載があって、通常の山道とは違う等高線に沿うような勾配の緩いルートが描かれている。
白浜や田辺方面とを結ぶ道で、昔は荷車なども通って物資を運んだのだろう。
切通しの壁。
暫し、遠い過去の賑わいを思い描く。
道は谷川からやや離れた場所を通っており、流れの様子はあまり見えないので、右岸から鍋津呂谷が合流する手前付近で水辺に下りることにする。
滝のある険しいところは通り過ぎてしまっているようであるが、帰りに流れに沿って下ることにして、まずは上流に向かってみる。
滝というには落差が小さいが、この辺りの直線的な岩が特徴ある姿にしている。
平面状の岩も多く、艶のある光を反射する。
これ以上進んでも特に何も無さそうなので、引き返して鍋津呂谷の方にも入ってみる。
こちらにも小さい落差があったが、やはり岩が特徴的だ。
ドン谷に戻り、流れに沿って下っていくことにする。
小さな落差はあるものの、概ね穏やかな流れが続く。
やがて滝音が響いてきて、それなりの落差の滝が現れる。
滝を下りるのは無理だろうと思いきや、左岸の岩が見事に階段状だったので、簡単に滝下へ。
この滝、見る位置で表情がかなり変わる。
これは別の滝のようだけれど、真ん中の段を横から撮ったもの。
岩が、自然を模した人工物のような、それでいて人工物では出せない美しさを持っていて魅力的だ。
もっとじっくり撮りたい面白い滝だったが、時間があまり無いので先に進む。
平流の部分も捨て難い美しさがある。
ちょっと写真が傾いているようにも見えるけれど、流れの奥を見てもらえば判るように傾いているのは手前の岩である。
この谷、他にもこんな感じのところがあって、写真を撮っていると平衡感覚がおかしく思えることがあった。
こういう流れの雰囲気はとても好きだ。
再び滝音が響いてきて、前方がストンと切れ落ちている。
今度は下りるのは不可能で、下を覗けば井戸の底に吸い込まれるような迫力がある。
少し手前に崩壊した低い堰があり、そこから水路跡が伸びているので、それを辿ってみる。
岩を削り、切通しで水路が築かれている。
向こう側が谷川で、こちらに来ると滝音が更に大きく響いてきた。
岩の上には祠のようなものがあり、その横の石には名前らしき文字が刻まれている。
それにしても、これだけの手間をかけて切り開かれた水路に驚くと同時に、それが今は使われていないのが、何か寂しいような物悲しいような。
滝の全容が見えてきた。
まるで放水口から水を噴出しているダムのような姿だ。
水路跡に沿って進むつもりだったが、もっと滝の近くに行きたいと思い、もう少し下流から斜面を下りることにした。
流れに下り、滝に近づいていく。
岩が立ちはだかるように聳えて圧迫感がある。
あちこちに動物の糞があって、自然の真っ只中にいる気分だ。
斧で断ち割ったような岩に感嘆する。
ここも人工物のようでありながら、やはりその美しさに息を呑む。
岩の造形、映し出す光に見惚れる。
こんな滝が殆ど人に知られていないのだから、やはり南紀は凄い。
滝から下流は、また穏やかな流れになる。
少しの距離で、前方が明るく開けてきた。
日置川との合流地点だ。
暗く狭い谷間から、明るく伸びやかな日置川の河原を見るとホッとする。
暫くぼーっとしたいところだけど時間が無い。
既に夕暮れの気配が漂っているので八草の滝へ急ぐ。
日置川に沿った道を進むが、土砂が流れ出しているところなどあり、意外と険しい。
日置川から少し離れて暗い谷間に入ると八草の滝までは僅かだ。
滝の手前にはイヌマキの大木があって、祠もある。
そして八草の滝。
日本の滝100選の中では評価が低く、実際、地元もあまり宣伝している様子が無い。
落差は結構あるけれど、水量は少なめで、姿もぱっとしないとは思う。
岩がこの辺りの特徴を出していて個性的とは言えるのだが・・・。
雨後に水量が増えれば、もっと美しい姿なのだろうか。
ただ、殆どの人は日置川の対岸から遠望するのみで、滝下まで来て見る人は少ないようだ。
水量が少ないので遠望では更に見映えがしないし、それで評価するのはちょっと可哀想な気はする。
岩の反射の美しさなど、対岸からは全く判らないのだ。
それにこの岩の表情は、水量によって水の表情をも大きく変化させそうで、なかなか奥の深い滝なのではないだろうか。
かなり暗くなってきた道を急いで戻る。
明日に備えて、車中泊場所を探さねばならない。
2万5千分1地形図 富田
撮影日時 101021 14時10分~17時10分
駐車場 久木橋の東側にスペースあり。西側のスペースはバスの転回場所なので注意。
地図