犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

向井万起男著 『君について行こう』より

2010-11-06 23:53:47 | 読書感想文
下巻 p.22~
 私も、スペースシャトルに乗り込むからには、死ぬかもしれないということを考えていないわけではない。でも、その恐怖は自分なりに心の中で始末をつけたという自負がある。宇宙飛行士募集に応募して、第2次選抜を通過したあたりで、そのことをじっくり考えたのだ。
 死の恐怖を引きずったまま宇宙飛行士に選ばれてしまってはマズイ、選抜から降りるか、死の恐怖に始末をつけるかを決断しなければと思い、自分は決断したのだ。死ぬときは死ぬ。宇宙をめざして死ぬのなら、私は後悔しない。今でも死ぬかもしれないということは忘れてはいないが、もう気になんかしていない。

p.317~
 あと1分。打ち上げまであと1分と迫ったのに、静かなままだ。私は、なにか不思議な気分だった。オレの女房が乗り込んだスペースシャトルが打ち上げられるまで、あと1分しかないというのに、なにも世の中が変わっていないなんてことがあっていいの? こんなことでいいの? 特別なこともなく、なんの儀式もなく、ただ時間だけが予定の打ち上げ時刻に向かっている。
 こんなに何もない状態でいいの? こんなに静かで何も起こらない状態で本当にスペースシャトルはあと1分で打ち上げられるの? 私は、本当に不思議な気分だった。私の人生で、これほど、時間だけがすべてという状態に置かれたことはなかった。


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 これまで何人もの宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に行きましたが、そのニュースの取り上げられ方がいつも面白くないと感じます。「宇宙から地球を見ると国境線をめぐって争っている人類が愚かに思えませんか」とはとても聞けないでしょうが、何となく質問が紋切り型で軽薄に思われるからです。

 恐らく、宇宙飛行士の仕事が死と紙一重でありながら、聞く側がその事実を遠ざけたまま、夢や希望といった切り口からの質問に終始しているからだと思います。それで宇宙飛行士の方々が、多くの国民に感動を与える役割を遂行しているのであれば、立派なことだと感じます。

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