犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

映画 『西の魔女が死んだ』

2008-06-29 19:13:05 | その他
原作 梨木香歩著『西の魔女が死んだ』(新潮文庫) p.116~より

「おばあちゃんは、人には魂っていうものがあると思っています。人は身体と魂が合わさってできています。魂がどこからやって来たのか、おばあちゃんにもよく分かりません。いろいろな説がありますけど。ただ、身体は生まれてから死ぬまでのお付き合いですけれど、魂のほうはもっと長い旅を続けなければなりません。赤ちゃんとして生まれた新品の身体に宿る、ずっと以前から魂はあり、歳をとって使い古した身体から離れた後も、まだ魂は旅を続けなければなりません。死ぬ、ということはずっと身体に縛られていた魂が、身体から離れて自由になることだと、おばんちゃんは思っています。きっとどんなにか楽になれてうれしいんじゃないかしら」


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現代社会の都市に生きる人間は、自分自身の人生を見つめ直す時間がないほど忙しい。心のどこかでは、根本的な問題を置き去りにしている不安に気づいている。しかし、実際のところは、人工的な食品や電気製品、人工的な制度やシステム、そして表面的な人間関係について行くだけで精一杯である。その結果、日本では10年連続で自殺者が3万人(1日100人のペース)を超えたことが明らかとなった。2年前には自殺対策基本法が制定され、「自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみとらえられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない」と定め、職場や学校、地域における心の健康を保つ体制の整備を要求しているが、あまり効果を上げていないようである。

敏感な感性を持つ子どもを、このような現代社会の混沌から救い出すことは容易ではない。主人公の13歳の少女のまいは、人間関係に疲れて学校に行けなくなり、自然の中で祖母との生活を始めることになった。これが彼女の「魔女修業」である。そこには、リアルな現実以外には何もなく、ハリー・ポッターのホグワーツ魔法魔術学校とは対照的である。魔女修行といっても、予知や透視、テレパシーや念力、呪文や瞬間移動などは何も出てこない。大切なことは、「何でも自分で決めること」、そして「正しい方向をきちんとキャッチするアンテナをしっかりと立てて、身体と心がそれをしっかりと受け止めること」である。「この世には悪魔がうようよしており、精神力の弱い人間を乗っ取ろうとして、いつでも目を光らせている」からである。

この物語の大きなテーマは「死生観」である。まいは、「人は死んだらどうなるのか」という最大の問いを処理できないでいる。そこで祖母は、魔女修行という課題を出した。ただし、そもそも魔女とは何か、どうすれば魔女になれるかをハッキリと指示することはしない。都会を離れて自然に触れ、全身で体感し、具体的に行動することによって、「人は死んだらどうなるのか」という最大の問いが、恐ろしいものではなく、暖かいものに変わってくることになる。この映画は、原作の雰囲気を見事に再現しているため、そのまま行間の多い映画になっている。出演者はわずか数人であり、大きな展開もないため、楽しめる人と退屈を感じる人が極端に分かれているようである。しかし、その差は映画の側にあるのではなく、見る側の想像力の差にある。

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4 コメント

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ちょっとみたくなりました。 (ゆうとまま)
2008-06-29 19:21:43
魔女役の方の女優がちょっと気になっていたものストーリー的にはあまり興味がありませんでした。しかし、この記事をみて、ふと見てみたくなりました。
おすすめします。 (某Y.ike)
2008-06-29 21:24:54
「泣かせる」映画ではなく、「泣ける」映画だと思います。梨木香歩さんには、女性のファンが多いようです。
そういうストーリーなのですね。 (ゆく)
2008-07-01 17:10:03
本を読んでみたい気がします。興味があります。
「死生観」、生をテーマにしたものは溢れているのに死は避けられがちですね。
こういうテーマは、見る側の想像力プラス求める気持ちがないと意味が薄く終わってしまうかもしれないですね・・・。
じわじわと人気が出ているようです。 (某Y.ike)
2008-07-01 20:46:41
私の家の近くの本屋にも映画の大きなポスターが貼ってあり、レジのところは文庫本が平積みになっていました。

おっしゃる通り、見る側の想像力プラス求める気持ちによって、全く異なった印象を残す話だと思います。この物語に選ばれた方は幸せでしょう。

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