犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

田中慎弥著 『共喰い』

2012-03-28 23:08:50 | 読書感想文

 この小説の中の登場人物は、それぞれ暴行罪(刑法208条)、傷害罪(204条)、強姦罪(177条)、殺人罪(199条)を犯しています。どの犯行も顔見知りの間でなされたものであり、日常の生活の延長のように描かれています。そして、その描写は非常に生々しいです。

 私はこれまで、刑事裁判の仕事で無数の生々しい供述調書(司法警察員面前調書・検察官面前調書)を読んできましたが、小説家の捉える生々しさは、刑事裁判実務のそれとは意味が全く違っています。人間の心の中の屈折、あるいは人間の業を法律で扱うには限界があり、その先は純文学の守備範囲であると改めて感じます。

 ある種の犯罪は非常に内向的なものであり、長年かけて溜まったものが一瞬で爆発する瞬間を言語化するためには、その直後から非常に繊細な手続きを要するものと思います。取り調べが可視化され、録画されない人の心の内を除いた部分が中心論点となっている法制度の下では、これは望むべくもない手続きです。

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