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くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

緩慢なフランスパンの丘 その4

2006-01-23 22:02:05 | 連載もの 緩慢なフランスパンの丘

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 白樺の林にはいつでも行けるわけではない。最近行ったのは、およそ二年前のことになる。
 僕はその頃、非常に特殊な状況にあった。実のところ、毎晩毎晩、戦さに出ていたのである。
 小高い丘の上に陣地があったのだが、僕はそこに“サロン”と称する場所を設け、児島スバルや諸々の文学者を招いて歓談した。スバルはあの怪物、児島善治の孫であったが、実にいい青年だった。

 敵地はすぐ目の前にあり、そこから刺客やスパイもやって来た。しかし「戦時こそ文化活動が必要」と称して、僕は毎晩サロンを開いたものだ。


緩慢なフランスパンの丘 その3

2006-01-23 14:39:06 | 連載もの 緩慢なフランスパンの丘

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 この林の中に、木造の家屋がある。
 丸太小屋のようだが、粗野な造りではない。手に触れる部分は柔らかくて、少しだけ品がいい感じだ。
 中に入ると、壁も床も板張りで、天井の低い部分からは網のハンモックが吊り下がっている。ここにはいつも、コットンのブラウスが何枚か重なっている。襟のあたりがひらひらしたデザインで、色は生成だ。

 これが誰のものなのか、いつも分からない。妹のものだと考えるのがぴったりくるのだが、妹はここに住んでいない。母も住んでいないし、別れた妻もいない。
 もともと、この家には誰もいないのだ。生活臭というものがまるでない。それでいて、ベッドのカバーやシーツはいつも乾いていて清潔だ。
 ここで得る睡眠は、他とは比べものにならないほど快適なものだ。