「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」 
2021/3/27~5/23 *4/25より臨時休館



東京藝術大学大学美術館で開催中の「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」の特別内覧会に参加してきました。

明治から大正にかけて活動し、パリ万博を契機にフランスへ渡った経験もある画家の渡辺省亭は、印象派のメンバーと交流し、ロンドンでは個展が開かれるなど海外で高く評価されてきました。


迎賓館赤坂離宮 七宝額原画 展示風景

また国内でも迎賓館赤坂離宮の七宝額原画を描いて実力を発揮したものの、後年は画壇から離れて弟子をとらずに市井の画家を貫いたため、没後は必ずしも作品が良く知られてきませんでした。


左:渡辺省亭「花鳥魚蝦画冊」(藤に小禽図) メトロポリタン美術館 アメリカ

その省亭の実に国内の美術館としては初めての回顧展が「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」で、個人コレクションをはじめ、海外からの里帰りを含む約100点近くの作品が公開されていました。(前後期で入れ替えあり。)


渡辺省亭「歴史人物画帖」 明治9(1876)年

1852年、幕末の江戸の神田で札差業を営む家に生まれた省亭は、16歳にして歴史画家の菊池容斎に入門すると、容斎の歴史人物画集であった「前賢故実」を模写するなどして絵を習得しました。


渡辺省亭「四季江戸名所」

ただ修行時代は特に手本を与えられず、具体的な絵の描き方は教われなかったとされ、3年後には独立して作品を描くようになりました。明治初期は狩野派の当主ですら仕事がないような画家にとっては厳しい時代で、省亭も例外ではありませんでした。

1875年、起立工商会社に入社した省亭は、輸出工芸品の下絵や図案制作に従事するようになり、後に省亭の画業を中心となった花鳥のモチーフを多く描きました。そして2年後には内国勧業博覧会にて工芸図案が花紋賞牌を受賞すると、個人として描いた「群鳩浴水盤ノ図」がパリ万博に出品されるなど、画家としての頭角を現しました。


左:渡辺省亭「鳥図(枝にとまる鳥)」 明治11(1878)年 クラーク美術館 アメリカ

そしてパリ万博に際して起立工商会社の社員として渡仏した省亭は、美術商に随行しつつ同地の画家と交流し、印象派の画家の集うサロンにて席画を披露しては注目を集めました。そのうちの「鳥図(枝にとまる鳥)」は実演の場でエドガー・ドガのために描いた一枚で、ドガは作品を気に入ったのか生涯手放すことはありませんでした。

省亭がパリに滞在していた正確な期間は明らかではありませんが、おおよそ1年余りは同地で活動していたとされていて、帰国後の数年間にて自らのスタイルを確立していきました。


「美術世界」春陽堂刊 明治23〜27(1890〜94)年

30代から40代にかけての省亭は挿絵や口絵の仕事にも携わり、雑誌「美術世界」では自ら編集にも力を注ぐなど多方面に活動しました。と同時に博覧会への出品も度々行っていて、シカゴ・コロンブス世界博覧会へは同時期を代表する「雪中群鶏図」を描きました。またロンドンのギャラリーで水彩画家との二人展や個展を開き、イギリスの美術雑誌に掲載されるなどして広く知られていきました。


渡辺省亭原画 濤川惣助作「七宝四季花卉図花瓶」 静嘉堂文庫美術館

濤川惣助との無線七宝との共同作業もパリからの帰国後に行われ、省亭は七宝のための原画を数多く濤川に提供しました。


渡辺省亭「冬の花鳥」

主に花鳥画で人気を得た省亭は、50歳の頃になると博覧会などに出展せず、団体にも属さずに個人で活動しながら高い画料を得て絵を描いていきました。今でこそ知られざる画家である省亭ながら、生前はかなり売れっ子だったようで、晩年まで筆力は衰えることはありませんでした。そして1918年、東京・浅草の地にて68歳で亡くなりました。


「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」 展示風景

今回の省亭展で何よりも魅惑的なのが、やはり画家を代表する花鳥画の世界でした。省亭は容斎から円山四条派を学び、起立工商会社では江戸琳派を倣ったとされていますが、花も鳥も虫も迫真的とも呼べる描写を見せていました。それでいて全てが克明に表されているだけでなく、時にざっくりしたような筆触も用いていて、硬軟を巧みに使い分けていました。


右:渡辺省亭「牡丹の図」 明治32(1899)年

透き通るような色彩美も独特な味わいがあるのではないでしょうか。鳥の目の小さなハイライトや、ほのかな湿り気さえ帯びたような柔らかい花弁の描写など、それこそ花鳥に命を吹き込みつつ潤いを与えているかのようでした。


右:渡辺省亭「牡丹に蝶の図」 明治26年(1893)年

さて東京藝術大学大学美術館にて3月末から開かれてきた省亭展でしたが、政府の緊急事態宣言を受けて4月25日から臨時休館に入りました。その後、5月11日からの宣言の延長に伴い、会期を残すところ1週間となった現段階においても再開できない状況が続いています。私も前期を一度拝見し、4月27日からの後期展示を楽しみにしていましたが、臨時休館中ゆえに作品を鑑賞することは叶いません。


右:渡辺省亭「雪中鴛鴦之図」 明治42(1909)年 東京国立近代美術館

5月15日において公式サイトには「臨時休館を継続」とあり、払い戻しについての案内も記載されています。会期を鑑みると再開は極めて困難ですが、同展は藝大美術館の展示を終えると、愛知、静岡の各美術館でも開かれる巡回展でもあります。

「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」巡回スケジュール
愛知展:岡崎市美術博物館 5月29日(土)~7月11日(日)
静岡展:佐野美術館 7月17日(土)~8月29日(日)


迎賓館赤坂離宮 七宝額原画「真鴨に葦」 東京国立博物館

残念ながら東京では実質会期半分にて展示を終えてしまいましたが、巡回先でも多くの方に省亭画の魅力が伝わればと思いました。


巡回先を含めた最新の開催状況等については公式サイトをご確認下さい。

「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」@seitei2021) 東京藝術大学大学美術館
会期:2021年3月27日(土)~5月23日(日) *4月25日より臨時休館
 *前期:2021年3月27日(土)~4月25日(日)、後期:4月27日(火)~5月23日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1700円、高校・大学生1000円、中学生以下無料。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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