私の日常

毎日の生活で印象に残った出来事を記録しておきたい。

乙川優三郎『R.S.ヴィラセニョール』

2017-06-18 09:53:10 | 日記

June 18, 2017

予約したのをすっかり忘れていた本、乙川優三郎『R.S.ヴィラセニョール』が届いたという連絡が図書館から入った。ハ―ドカバーの小説を読むのは久しぶりだ。いつもこの作家の本はつれづれに読むのに適していて、楽しく読ませてもらってきたが、眼を患ってからは小説を楽しむ余裕がなくなってきている。なんとか一気に読み終えたが、少し疲れた。ブログで触れようかと思いながら友人のブログを覗くと、本書について書かれていた。この方のホームページ上での海外への旅の旅行記がなかなか重厚で楽しませてもらっている。本書についてのブログも、いつものように深く読みこまれていた。読後の思いは同じようなので2番煎じになりそうだが、私も少し書いてみよう。

「R.S.ヴィラセニョール」は、フィリピン人の父と日本人の母の混血児である主人公の女性とその父親の名前だ。この父娘が主人公ということかもしれない。物語は、染色工房を持ち工芸展に入選して染色家としての道が少しずつ開けて行こうとしている主人公を中心に進む。近くに住むメキシコ人との混血児で、草木染めで糸を染めている若い男性との交友などもあり、混血児として体験するいじめや差別なども織り込まれていく。着地点が必ずあるこの作家の恋愛小説かと思いながら読み進めていくと、主人公(小説ではレイと呼ばれている)の父親の話に切り替わり、マルコス政権下での圧政の犠牲者としての父親の姿が描かれる。あの頃、圧政を逃れて日本へ亡命してきたフィリピンの人も多かったようだ。移民や難民の問題が大きく取り上げられ始めている現代、著者の乙川に何か意図するものがあったのだろう。

一つの問題提起を感じさせられる小説ではあったが、私は前半の染色家としてのレイの描写が、若い頃に少しかじったことがある型染めの世界を思い出させてくれた。この頃点訳ばかりに目が向いて、色の世界から遠ざかってしまってきていることが、なぜか悲しかった。水彩絵の具を出してきて眺めながら、今年80歳になっったのを契機として、水彩画を習ってみようかという気持になった。

画像は、友人のメールから、「ガクアジサイ」。