私の日常

毎日の生活で印象に残った出来事を記録しておきたい。

読書会

2015-12-08 19:41:28 | 日記

December 8, 2015

友人宅での読書会と忘年会、有意義で楽しい1日だった。本は、村上春樹『国境の南、太陽の西』(講談社文庫)。サラリーマンだった主人公ハジメは、結婚した女性の父親から資金援助を受けて2店のジャズバーを順調に経営し、2人の娘にも恵まれ何不自由のない生活を送っている。しかし、心に満たされない欠落を抱え、その欠落を埋めるものとして、中学生の時に仲の良かった女性との再会があった。村上作品に出てくる異界が、今回はこの女性である。今の生活を捨てて死の世界へ女性と旅立つ決意をしたところで、女性が去っていき、主人公はもとの生活に戻っていく。本書の概略である。

もちろん本書は私小説ではないが、村上春樹は、自分が異界を卒業したことをこの作品に込めたのではないだろうか。そして、その後の作品は、心に何らかの欠落を抱えてさまよう人たちのために書いているのではないだろうか。私は、これまでに村上春樹の作品を何冊も読んできたが、今スタートに立った気持ちで読み続けていきたいと思っている。この作品は、分りづらかった村上作品を解読する道を開いてくれたようだ。読書会のメンバーの皆さんの言葉も大いに力になった。次に、少し長くなるが、本書の最後のページに近い部分を引用させていただく。

 自分の中にこれから先ずっと有紀子や子供たちを守っていくだけの力があるのかどうか、僕にはまだわからなかった。幻想はもう僕を助けてはくれなかった。それはもう僕のために夢を紡ぎだしてはくれなかった。空白はどこまいでいっても空白のままだった。僕はその空白の中に長いあいだ身を浸していた。その空白に自分の体を馴染ませようとした。これが結局僕のたどりついた場所なのだ、と思った。僕はそれに馴れなくてはならないのだ。そしておそらく今度は、僕が誰かのために幻想を紡ぎだしていかなければならないのだろう。それが僕に求められていることなのだ。そんな幻想がいったいどれほどの力を持つことになるのか、わからなかった。でも今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。(村上春樹『国境の南、太陽の西』講談社文庫)

画像は、妹のメールから、名前は分らない。