グローバルネイチャークラブのガイド日記

グローバルネイチャークラブ(旧グローバルスポーツクラブ)のガイド仲間が観察した伊豆大島の自然の情報を中心にお届けします。

日本緑化工協会の講習会

2018年02月06日 | 火山・ジオパーク
先日NPO法人日本緑化工協会の技術講習会にご招待いただいて講演を聞いて来ました。
(伊豆大島のジオガイド2名が、2日目のみの参加しました)

会場の写真を撮り忘れましたが、170名の参加者だったそうです。
広い会場の一番前の席に案内されて驚きました(恐縮)

で、いつものごとく、印象に残ったことだけまとめてみます。

演題4「御蔵島台風崩壊地の植生回復〜外来牧草の導入の可否について〜」
講師 荒瀬輝夫先生 信州大学農学部附属アルプス圏教育科学センター 
「今から20年以上前の1995年9月、雨量積算648mm、最大風速70mの台風21号の影響で御蔵島のスダジイ・タブノキなどの天然林に多数の崩壊地が発生。2000年に倒木を使ってそだ筋を作り、大葉ヤシャブシなどの島内植物の苗が植えられた。2002年そのうちの一部の地域にヘリコプターで外来牧草の種子散布。一部地域には施肥も行なった。ヘリコプターで散布された外来牧草(イネ科植物やシロツメグサなど)は初期の2年間は被度80パーセント以上を維持したが10年後にはほぼ衰退し自然植生へ移行した」(荒瀬先生)

自然植生に移行するのに10年!
ずいぶん長くかかったのですね!!

大島で種子散布後の定点観測を行なっている山腹の崩壊斜面は、発災4年後の昨年10月、すでにかなり大島の森に生える草(オオシマカンスゲ)が入って来ていました。背の低い草は、冬も葉が枯れないオオシマカンスゲに光を奪われて生きていけなくなるはず…。なんだか御蔵島に比べてペースが早いような気がしますが、島ごとの環境の違いが、植物の生育にも違いをもたらすのでしょうか?

演題5「遺伝的地域性に配慮した在来植物の緑化利用について」
講師 今西純一先生 京都大学大学院 地球環境学堂 

「生き物は環境に適応して多様に変化して来た。その多様性は遺伝子の変化から生まれる」(今西先生)

で、地球では…

種内・種間分化は数万〜数10万年の時間スケールだそうです。

例えば身近にあるススキも、遺伝子レベルで見ると国内が3つの系統にわかれるそうで…


日本は韓国や中国とは異なる系統なのだそうです。

「こうやって時間をかけて個性を持ったのだから、人間がごちゃ混ぜにするのは良くない」というのが今の「生物多様性保全」の考え方の一つのようですが、これに対しては様々な意見があるようです。

演題6「生物多様性保全・地域区分とし市場単価の問題に関するアンケート結果など」
講師 中野裕司氏 NPO法人日本緑化工協会 

アンケート結果には、様々な現状の問題点が示されていました。

法面緑化には生物多様性の保全の法律があるようです。(今西先生の資料より)


外来生物法制定の後、発注者が業者に外来牧草(主としてイネ科植物)の使用の自粛を要請。その結果、在来種という名前のついている中国産在来種を用ることになったそうです。

配布された資料の中で中野氏は「在来種の種子は、はじめは国内採取していたものの、人件費の高騰や労働者の高齢化で国内採取が難しくなり、採取地が韓国、中国へと移っていった。海外から移入したこれらの種子を在来種として取り扱うことになった」と、その経過を述べられていました。

これに関連することとして、前述の荒瀬先生は配布資料の中で「野生植物は自力で成長、繁殖しているため、予測のつかない将来に向けて全滅しないしぶとい生き方をしている。種子には休眠性があり発芽が揃わず、成長もばらつき、開花結実も毎年とは限らない(危険を分散している)群落形成は容易ではなく、最初の段階の種子の大量入手も容易ではない。地域性苗の使用技術には未だ不明なことが多く、外来牧草類に比べ、発芽や成長が劣るうえに一斉ではなく、速やかに地表を覆うことは期待できない。よって特別な保護地域でなければ、外来牧草の群落から天然性の植物群落へ遷移を誘導することは効率的かつ経済的」と述べられています。

緑化植物の問題には、この、外来牧草と外国産の在来種の問題のほか、緑化工の技術力の低下、価格、緑化スピードなど様々な問題があるそうです。

ゾーニング(自然度の高い国立公園の保護地区と、普通地域や一般地などによっての使い分け)の提案もありました。

「緑化にも様々な意見や、現実的な問題があるのだなぁ」と思いました。

最後に、中野氏は「理念理想のみを示すのみで、具体を示さなくてはさらなる混乱を招くこととなる。斜面・法面における生物多様性保全とはどのようなことを意味し、何をなすべきなのか、その定義、イメージの共有を図り、オールジャパンでの取組みが望まれる」と結ばれていました。

雨も地震も多く、土砂災害や洪水が身近な日本での暮らし。
緑化は私たちにとって、実は身近で大切な問題です。
こうやって理想と現実の狭間で、意見を交換しながら、考え続けることの重要さを感じました。

あまり専門的なことはわかりませんでしたが、様々な立場の方のお話が聞けて良かったです。

貴重な機会をいただき、ありがとうございました!

(かな)





コメント
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