面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ルームメイト」

2013年11月07日 | 映画
派遣社員として働く萩尾春海(北川景子)は、病院のベッドで目覚めた。
交通事故に遭った彼女は、命に別条はなかったものの、頭を強く打っており、片足も骨折していたことから、しばらく入院することになる。
春海が目覚めたことに気づいた看護師の安藤リカ(大塚千弘)が話しかけてきたが、春海はリカの後方にいて自分に何か語りかける様子の看護師に気づく。
リカが去った後、さっきの看護師が春海のそばにやってきて話しかけてきた。
西村麗子(深田恭子)というその看護師に対して、初対面ながらも春海は親近感を覚える。

何くれとなく春海を気遣い、優しく支える麗子。
患者と看護師という関係を超えて意気投合した二人は、春海の退院をきっかけに、麗子の提案により、春海の部屋で「ルームシェア」して暮らすことにした。
面倒見のいい麗子は、春海に代わって、交通事故を起こした加害者の工藤謙介(高良健吾)と彼の友人で損保会社の長谷川(尾上寛之)との交渉も引き受ける。
「麗子みたいな人だったら、ずっと一緒にいたい。」
「私もだよ、春海。」
すっかり心を許して打ち解けた二人の生活は順調のようだったが、日が経つにつれて、麗子には奇妙な言動が目立ち始める。
誰も部屋にはいないはずなのに、誰かと会話をしている。
会話の途中でいきなり口調が変わってしまう。
次第に春海の周りで不可解な事件が起こり始めたある日、目の前に麗子と瓜二つのマリという女が現れた…


近年すっかり定着した感のある、ルームシェアというライフスタイル。
自分も昔、ある事情から期せずしてルームシェアを体験したが、同居した“先輩”は本当にイイ人で、ほとんどストレスを感じることなく暮らすことができた。
互いの個室に行き来することなく、それぞれの生活に対して一切干渉せず、かといってよそよそしいワケではない程良い距離感。
“先輩”は休日になるとよく趣味の釣りに出かけるのだが、こちらに外出予定が無いときなどは、よく刺身パーティーを開いたもの。
釣り仲間と共に釣果を引っ提げて帰ってくる“先輩”を、飯を炊いて待つのがお決まりのパターンだったのだが、そんなイベントもありつつ楽しく過ごした。
そんな理想に近いルームシェアを体験した身には、同居人に謎の“別の顔”があるなどという恐怖は耐えられない。
意気投合した相手と暮らし始めたのに、その相手に徐々に不可解な行動が見えてくるなど、想像するだに恐ろし過ぎる。
1993年公開の「ルームメイト」も、段々明らかになっていく同居人の本性が恐怖をもたらす作品だったが、物語を作る上では格好の題材ではある。

更に、物語の中心に、これもまた近年、社会問題として大きく取り上げられることも多い「解離性同一性障害」が鍵となっている。
ことに女性がこの障害を持つ場合、幼い頃に身内から性的虐待を受けていたことが原因となっているケースも多いのだが、本当にいたたまれない。
虐待を受ける自分を否定して別人格を作りあげることで、その悲惨な体験と記憶を無かったものにするという自己防衛策は悲し過ぎる。
登場人物がかつて受けていた虐待のシーンでの、「ギーーーッ!」という人間の声とは思えない悲鳴が生々しく、見ていて胸が潰れる。
この障害が引き起こす惨劇は、手を血で染めたその実行犯に対する同情を禁じ得ない。


クライマックスで次々に判明して物語を二転三転させる驚愕の事実は、単純な自分には読み切れずに最後まで楽しめた。
北川景子と深田恭子という美しい“競艶”が、ヒロインの境遇をよりもの悲しく引き立たせる、上質のサスペンス・スリラー。


ルームメイト
2013年11月9日(土)公開 /日本  監督:古澤健
出演:北川景子、深田恭子、尾上寛之、高良健吾、大塚千弘、筒井真理子、螢雪次朗、田口トモロヲ