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功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『フル・ブラッド』

2014-08-30 23:07:17 | カンフー映画:佳作
「フル・ブラッド」
原題:花旗少林/英雄會少林
英題:Treasure Hunt
製作:1994年

▼ご無沙汰していました、龍争こ門です。先月の中ごろにプライベートで重大な出来事があり、しばらくブログの更新が手に付かない日々が続いてました。最近になってようやく落ち着いてきたので、今回から「功夫電影専科」を再始動したいと思います。
さて、前回周潤發(チョウ・ユンファ)の出演作だったので、今回も彼の作品からチョイスしてみました。とはいえ、あまり香港ノワールに親しみがない当方にとって、連続で周潤發作品を紹介するのはこれが最初で最後かも…(苦笑

■アメリカ在住の周潤發は政府の秘密工作員。上司から「中国の国宝を奪取せよ」との指令を受け、協力者である泰漢(チン・ハン)に連れられて少林寺へと向かった。しばらく寺に潜伏することとなった周潤發だが、そこで超能力者の女性・呉倩蓮(ン・シンリン)と運命的な出会いを果たす。
彼は次第に呉倩蓮と親交を深め、旧態依然とした少林寺の姿勢に異を唱えるなど、周囲に変化をもたらしていく。…だが、とうとう周潤發が寺を去る日がやって来た。後ろ髪を引かれる思いで彼は寺を後にするが、帰りの道中で恐るべき陰謀を知ってしまう。
 実は国宝とは呉倩蓮のことで、今回の一件はある種の人身売買だったのだ。泰漢は公安局の高官(泰漢の一人二役)に化け、アメリカに彼女を引き渡そうと画策。真相を知った周潤發は凶弾を受け、事件に少林寺の住職・劉家輝(リュー・チャーフィ)も関与していたことが発覚する。
その後、超能力によって周潤發の怪我は完治したが、呉倩蓮は彼をかばって泰漢のもとに投降していった。全ての事情を知った周潤發は、愛する彼女を救うために命がけの戦いに挑むが…!?

▲本作はジャケットだけを見ると香港ノワールっぽく見えますが、実際はコメディあり・ファンタジーあり・ラブストーリーあり・功夫アクションありという、香港映画らしい超ごった煮ムービーとなっていました(爆
ストーリーの方も怪しい部分が多く、国宝の奪取という当初の目的を早い段階で見失うなど、色んなところで穴が見られます。しかし、ギャグからシリアスまでこなす周潤發の柔軟な演技力、印象的なカットの数々によって良質な作品に仕上がっているのです。
 特にラストで超能力という奇抜な要素を上手く生かし、感動の別れを演出するくだりは流石の一言。『西遊記リローデッド』は個人的にハズレでしたが、今回は劉鎮偉(ジェフ・ラウ)監督の手腕に唸らされました。
ところでアクションについてですが、舞台が少林寺なので周潤發による殺陣もボチボチあります。が、それよりも功夫ファン必見の見せ場は劉家輝VS郭振鋒(フィリップ・コク…本作の動作設計も兼任)の一戦でしょう。
 劉家班と五毒のエースというこの顔合わせは、ショウ・ブラザーズ時代にも実現しなかった珠玉のカードです。大怪我を負ったまま放置される周潤發には気の毒ですが(笑)、このバトルだけでも見る価値はあると言えますね(もちろんラストで周潤發も暴れるのでご心配なく!)。
全体を通して見るとまとまりに欠けるものの、質に関しては同じ闇鍋映画の『ポストマン・ファイツ・バック』を凌駕する本作。ちなみに劉家輝と郭振鋒、ちびっ子坊主の蔡宇は『少林活寶貝』という動作片に似た役柄で出ているのですが、いつかこっちも見てみたいなぁ…。

「酔拳」に挑んだ男たち(6)『豬肉榮』

2014-03-25 22:20:12 | カンフー映画:佳作
豬肉榮
英題:Butcher Wing/Death Stroke
製作:1979年

▼(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 皆さんもご存知のように、『酔拳』は実在した英雄である黄飛鴻を主人公としています。昔から黄飛鴻は映画の世界で親しまれてきましたが、『酔拳』では従来の老成した人格者というイメージを廃し、ヤンチャでお調子者の現代っ子として描写しました。
この思い切った試みは香港の観客たちを爆笑の渦に叩き込み、映画を大ヒットに導く一因となったのです。当然、2匹目のドジョウを狙った作品も数多く製作され、少林英雄を扱ったコメディ功夫片が続々と誕生していくことになります。
 代表的なところでは、広東十虎の1人である鐵橋三を扱った『廣東鐵橋三』、同じく広東十虎の1人・王隠林に梁小龍が扮した『鶴拳』、あの蘇乞兒の青年期をモチーフにした『少年蘇乞兒』なんてのもありましたね(笑
この手の作品で最も有名なのは、黄飛鴻の高弟・林世榮が主役の『燃えよデブゴン7』でしょう。洪家班と袁家班が手を組んだ奇跡的な作品であり、黄飛鴻俳優の祖である關徳興の出演も見逃せません。
本作は同じ林世榮をテーマにした作品で、主演は七小福のメンバーだった呉明才(ウ・ミンサイ)が担当。『燃えよデブゴン7』から李海生(リー・ホイサン)も参加しているため、どちらかというと『酔拳』よりデブゴン映画の匂いを感じさせる一本です。

■肉屋を経営する呉明才は、友人の韓國材(ハン・クォツァイ)とともに悪どい武勝館の連中をこらしめた。一味のボスである李海生は、手下の宋金來を向かわせて2人に報復を実行する。
案の定ボコボコにされる呉明才と韓國材だが、その窮地を救ったのは医師の白彪(バイ・ピョウ)だった。2人は彼に弟子入りを志願するも、「功夫は復讐の道具ではない」と諭されてあしらわれた。
 その後、再び現れた宋金來を退けたまでは良かったが、続いて現れた唐炎燦(トン・ウェンチャイ)の前に呉明才たちは完敗。住んでいた豚小屋を放火された2人は、願いを聞き入れてくれた白彪のもとで修行を開始する。
そんなある日、呉明才は森の中で大量のアヘンを発見した。このアヘンは李海生たちが密売している品物で、さっそく2人は警察に通報した。が、回収したはずのアヘンは手違いで見つからず、商品を奪われた武勝館は攻勢に転じていく。
その最中に呉明才と一緒に住んでいた少年が殺され、李海生の罠によって白彪も重傷を負った。仇討ちを誓った呉明才と韓國材は、大草原で最後の戦いを挑む!

▲『燃えよデブゴン7』はアクションこそ芸術の域に達していたものの、復讐が復讐を呼ぶ陰惨なストーリーで著しく評価を落としていました。本作にもその気があり、全体的に笑える作りになっているのですが、話が進むにつれて血生臭さが増していきます。
最後の戦いは明るいものになってはいますが、よくよく考えると宋金來や他の手下たちはまだ健在だし、アヘンがどうなったのかも不明のまま。私としては最後まで楽しい作風を徹底して欲しかったので、この結末は残念に思えました。
 その反面、功夫アクションは腕に覚えのある俳優が揃っているため、動作自体は充実したものとなっています。実を言うと、私は呉明才の主演した作品を見るのは今回が初めてなのですが、ルックスはともかくキビキビした動きは目を見張るものがあり、さすがは七小福!と思うに足るものがありました。
また、本作の呉明才と韓國材は大した実力を持っていないため、苦戦に陥ると機転を利かせて状況を打破していくという点もユニークでした。この演出は最後のVS李海生でも生かされ、笑いとスリルが混じったファイトに仕上がっています。欲を言えば、今回とても面白いキャラだった鄭富雄にも活躍して欲しかったなぁ…。
さてさて、6回にわたって『酔拳』の便乗作を追ってきた本シリーズも、次回でようやくファイナルを迎えます。当初のキャスティングに関する考察から離れ、なんだか迷走気味になっているような気もしますが(苦笑)、そんな特集の最後を飾るのは…ずばり、韓国の『酔拳』フォロワーです!

『非情のハイキック ~黄正利の足技地獄~』

2014-01-13 23:46:53 | カンフー映画:佳作
「非情のハイキック ~黄正利の足技地獄~」
原題:巡捕房
英題:Tiger Over the Wall
製作:1980年

●上海租界で西洋人が飼っていた犬が失踪。彼らの威光を笠に着て、横暴の限りを尽くしていた黄正利(ウォン・チェン・リー)率いる警察組織は、言われるがままに捜索を開始する。
しかし犬は見つからず、黄正利たちは適当な人間に罪を着せようと企んだ。血気盛んな高飛(コー・フェイ)は警察のやり方に不満を抱くが、師匠の劉鶴年は警察に逆らって追われる身となった兄弟弟子・張力(チャン・リー)を引き合いに出し、自重するようにと告げる。
 そのころ警察は陳樓(チャン・ロー)を犯人として逮捕するが、それとは別に傘職人の白沙力を巧みに言いくるめ、スケープゴートに仕立て上げた。警察に言われて「犬は食った」と証言した白沙力は、激怒した西洋人によって足の骨を折られてしまう。
事件の隠ぺい工作を進める黄正利は、それと平行して目障りな高飛を始末しようと画策。殺し屋の魯俊谷を差し向けるが失敗に終わった。一方、獄中の白沙力を治療した劉鶴年は助けを求められるが、事なかれ主義の彼は頑として動こうとしない。
 次に黄正利は、白沙力の釈放と引き換えに彼の娘・文雪兒(今回はアクションなし)を差し出せと迫る。これを知った高飛は激怒し、黄正利の片腕である江島を叩き殺した。劉鶴年はひそかに高飛を逃がすが、悪魔のような黄正利によって道場生もろとも全滅するのだった。
白沙力も獄中で殺され、劉鶴年の娘と文雪兒は張力といっしょに高飛と合流。我慢の限度に達した彼らは警察署に向かい、白沙力の妻を救出する。続いて高飛は仇敵の黄正利と雌雄を決するのだが…。

 今回も前回に引き続いて魯俊谷の監督作の登場です。本作が作られたのは、『酔馬拳・クレージーホース』と同じコメディ功夫片の全盛期ですが、その作風はまったくの正反対となっています。
ストーリーは西洋人の犬となった警察が引き起こす惨劇を描いていており、その光景は陰惨そのもの。犬が見つからないという些細な事件が発端となり、罪もない人々が死んでいく展開には気が滅入ってしまいました。
隠ぺいに隠ぺいを重ねて何が目的なのか解らない黄正利、事なかれ主義を貫いて被害拡大を招く劉鶴年など、登場人物の描き方もいい加減すぎます。それにしても、今まで何度となく道場破りをされてきた劉鶴年ですが、今回が一番悲惨だったかもしれませんね(汗

 このように物語面は頂けない出来の本作ですが、佳作にカテゴリされているのは功夫アクションが最高だったからに他なりません。このへんはレベルの高いアクションに定評のある、協利電影有限公司の面目躍如といったところでしょう。
今回もナイスな顔合わせが多く、ともに悪役俳優として名を馳せた高飛VS黄正利の一騎打ちだけでも、本作を見る価値は十分にあります。最終決戦では黄正利が関刀を振るい、足技に頼らない実力の高さを発揮。対する高飛も蟷螂拳や棍で俊敏な動きを見せています。
 高飛は江島・朱鐵和といった名悪役や、同じ協利電影のエースだった張力とも拳を交え、バラエティに富んだマッチメイクを披露しています。殺陣の質も高く、協利作品の中でも特にハイレベルだったと思います(動作設計の祥『雑家高手』も担当)。
ストーリーに難がありすぎるものの、功夫迷には是非とも見てもらいたい一本。ところで本作と関係ありませんが、魯俊谷が『群狼大戦』などを手掛けた王振仰と同一人物という話は本当なのでしょうか?個人的にはあまり信じたくないのですが…(苦笑

『新報仇/上海灘之新報仇/報仇』

2013-12-18 22:57:41 | カンフー映画:佳作
新報仇/上海灘之新報仇/報仇
英題:Revanchist
製作:1994年

▼功夫映画史に残る傑作である『ヴェンジェンス/報仇』。名匠・張徹(チャン・ツェー)が手掛けた監督作の中でも特に有名な作品ですが、そのリメイク版が90年代の台湾で密かに作られていました。
監督を務めるのはカメラマン出身の莊胤建で、武術指導にはあの羅鋭(アレクサンダー・ルー)が参加しています。製作には大陸系の中国合作電影製片公司が関わっているため、エキストラやセットの規模はなかなかのものです。
残念ながらオリジナルに関わったキャストやスタッフはいませんが、羅鋭作品の常連俳優や王侠・蔡弘などのベテランが参加。姜大衛にあたる役を『少林キッズ』で三徳和尚に扮した劉錫明が、狄龍役を『アイアン・モンキーグレート』のラスボスだった張建利が演じています。

■時は1920年代…上海租界に向かう汽車の中に、強い絆で結ばれた2人の少年がいた。ひょんなことから黒社会の一派・紅雲山荘の一員となった彼らは、やがて劉錫明と張建利に成長する。
ある日、トラブルで西洋人を射殺した張建利を庇うため、劉錫明が身代わりとなって獄に入った。張建利は保釈金を工面するため、組織の刺客となって危険な任務に従事していく。久しぶりに再会した幼馴染の呉珊珊は、そんな彼の様子を心配するのだが…。
 黙々と任務をこなす張建利は、次に敵対組織である威虎山荘への潜入に挑んだ。まんまと彼はボスの王侠に取り入るが、腹心である張豐毅(チャン・フォンイー)の目までは誤魔化せず、奇襲を受けて殺されてしまう。奇しくも、それは目標額に達した保釈金を部下に預けた直後の出来事であった。
晴れて自由の身となった劉錫明は、変わり果てた友の姿に涙を流した。紅雲山荘はしめやかに葬儀を執り行うが、そこに王侠たちが押しかけてきたため一触即発の状況に。すわ全面戦争かというその時、実は王侠の娘であった呉珊珊の静止により事態は収拾する。
 しかし成り行きで彼女は劉錫明の元から離れ、威虎山荘へと去って行った。だが威虎山荘では、密かに野心を抱いていた張豐毅が組織の指揮権を奪い、さらには呉珊珊を妻に娶ろうと企んでいた。
結婚式の当日、王侠は推参した劉錫明に後のことを託すと、自刃して壮絶な最期を遂げた。それでも不適に笑う張豐毅に対し、心に”報仇”の二文字を刻み込んだ劉錫明が立ちはだかる!

▲ご覧のように本作は上海を舞台にした抗争劇であり、ストーリーはまったくの別物となっています。オリジナルと共通しているのは主人公が交代する点だけで、ぶっちゃけリメイクなのかどうかすら怪しいと言わざるを得ません(笑
とはいえ、作品自体の作りは決して悪いものではなく、先述したようにスケール感もバッチリ。演技面では父親として苦悩する王侠の姿が印象的で、功夫片の時代には見せなかった「泣きの演技」まで披露!これには思わず私もグッときてしまいました。
 ただ、後半は王侠サイドに比重を置きすぎたせいで、劉錫明の影が薄くなるという本末転倒な結果を招いています。本来なら彼は姜大衛のように報仇を目指し、自ら戦いの中に身を投じるべき役柄のはず…本作はその点を外してしまったのです。
アクションもワイヤーで飛び回るニンジャ映画的な動作のため、作品のカラーと剥離しています。動作そのものは迫力があるし、終盤の劉錫明VS張豐毅もバチバチ殴りあってイイ感じなんですが…。
 肝心なところが徹底されていないため、なんともいえない居心地の悪さを感じてしまう本作。『報仇』のリメイクという大きすぎる冠を取り払えば、それなりに評価できる作品ではあると思います。
ちなみに本作には羅鋭も脇役で出演していますが、華麗なキックを一発披露した次の瞬間に呆気なく撃ち殺されていました(爆

追憶:香港映画レーベル(02)『ラスト・ブラッド/修羅を追え』

2013-11-06 23:43:36 | カンフー映画:佳作
「ラスト・ブラッド/修羅を追え」
原題:驚天十二小時/驚天12小時
英題:The Last Blood/Hard Boiled 2/Twelve Hours to Die
製作:1991年

▼90年代の香港映画界では、新進気鋭の作家たちによるオシャレ系作品の台頭、ワイヤーアクションの発展と普及、エキセントリックな三級片の流行など、様々な動きが起こっていました。この潮流は日本にも波及し、様々な香港映画レーベルを生み出すことになります。
フナイが発表した「闘龍」は、その名の通りアクション活劇を中心に展開したシリーズです。このレーベルからは極悪動作片の『群狼大戦』、クライムアクションの『城市特警』『九龍大捜査線』、劉華(アンディ・ラウ)の主演作などが発売されました。
 とりわけ劉華作品が充実しており、以前当ブログで紹介した『仁義なき抗争』をはじめ、『獅子よ眠れ』『暗黒英雄伝』『蒼き獣たち』といった名だたるタイトルがリリースされています。
ご覧のようにハードなアクション作品ばかりですが、今回取り上げる『ラスト・ブラッド/修羅を追え』も、アクションに次ぐアクションで彩られた作品です。

■シンガポールに訪れるラマ教の指導者を抹殺すべく、日本のテロリスト集団が動き出した。国際警察の譚詠麟(アラン・タム)は、仲間の梁家仁(リャン・カーヤン)とともに暗殺計画の阻止に乗り出していく。
しかし、突然の奇襲によって指導者は銃弾を受け、観光でシンガポールに来ていた羅美薇(メイ・ロー)も撃たれてしまう。すぐに2人は病院へ担ぎ込まれたが、奇遇にも両者は同じ希少な血液型であることが判明した。
 一刻も早く輸血をしなければ2人の命が危ない!国内にいる血液型保有者を求めて、譚詠麟たちは決死の捜索を開始する。一方、羅美薇の恋人である劉華もまた、警察の態度に業を煮やして単独行動を取っていた。
日本人テロリストの妨害が飛び交う中、譚詠麟と劉華は血液型保有者である曾志偉(エリック・ツァン)と接触。彼を病院に連れて行こうとするが、それは更なる死闘の始まりを意味していた…。

▲本作はスリリングなアクションが炸裂しまくる、まさにジェットコースターのような作品でした。ストーリーは冷静に考えるとかなりぶっ飛んでるんですが(笑)、監督を務めた王晶(バリー・ウォン)の勢い任せな演出が功を奏し、なかなかの快作に仕上がっています。
 まず面白いのがアクションシーンの数々です。本作のアクションは銃撃戦やカーチェイスが主体なのですが、動作設計を担当した柯受良(ブラッキー・コー)の手によって、豪快なスタントがこれでもかと展開されています。
クライマックスでは病院の中を車が突っ走り、重火器が火を噴くド派手な最終決戦が勃発。テロリストのリーダーを演じた秦豪(『九龍帝王』でも劉華と対決)が見せるブチキレ演技と相まって、異様な迫力に満ち溢れていました。
 また、基本的に本作はシリアスな雰囲気で統一されていますが、明るいシーンも多いので息苦しくなる事はありません。王晶作品にありがちなゴチャ混ぜ感も薄く、散漫な印象を受けないのも本作の強みと言えるでしょう。
後半で一気に奈落の底へ突き落とされる曾志偉、裏切り者を倒した際に血涙を流しているように見える譚詠麟など、印象的なシークエンスも多い本作。格闘戦が極端に少なく、ラストバトルは物足りなさを感じるものの、作品自体のクオリティは高かったと思います。
…というわけで、「闘龍」シリーズはこういった動作片を中心に展開しましたが、反対にクラシカルな功夫片を中心としたレーベルも存在しました。東和ビデオが放ったそのレーベルの名前は――次回に続く!

【春のBOLO-YEUNG祭り②】『硬漢功夫本』

2013-04-08 23:32:49 | カンフー映画:佳作
硬漢功夫本
英題:Kung Fu's Hero/Tough Guy/Angry Dragon
製作:1973年

▼世界的な大ヒットを記録し、後の香港映画界にも大きな影響を与えた『燃えよドラゴン』。その劇中で処刑人ボロを演じた楊斯(ヤン・スエ)は、ビルドアップされた肉体で存在感を誇示し、観客に強烈な印象を与えました。
一夜にして悪役スターとして認知された彼の元には、次々と出演依頼が殺到。李小龍(ブルース・リー)のフォロワー作品を始めとした、多くの映画に出演していくことになります。
本作は『燃えよ~』公開の年に作られたもので、李小龍の影響下にある作品ですが、作風やアクションは『餓虎狂龍』などで知られる呉思遠作品をベースにしています。本作のキャストやスタッフは同じような作品を幾つも手掛けていて、以前紹介した『小覇王』も彼らの作品だったりします。

■秘密捜査官の張力(チャン・リー)は、対立する2つの道場がある町を訪れていた。彼の目的は、この町の支配を企んでいる人身売買組織・山怪(サン・カイ)一派の掃討である。山怪一派は邪魔な2つの道場を排除するため、両者を争わせようと画策していたのだ。
張力は敵の計画をことごとく阻み、先手を打っていく。やられっぱなしで面白くない山怪一派は、仲間の唐天希(『Gメン82』のハゲ男)を呼び寄せて一方の道場を襲撃し、館長の一人娘である許珊を連れ去った。
 だが、山怪のもとで働いていた江可欣が彼女を連れて脱走。追われているところを張力に助けられ、許珊たちの証言によって敵の目的が道場の関係者全員に知れ渡った。計画は頓挫し、これで山怪一派もお終いか…と思われたが、新たな助っ人・楊斯の出現により再び勢いを盛り返してしまう。
その頃、張力は売り飛ばされようとしていた娘たちを救い出したが、その隙を狙われてもう一方の道場を破壊されてしまった。逃げる山怪!追う張力!果たして、この追跡劇はどちらに軍配が挙がるのか!?

▲ストーリーこそ雑な感じですが、エネルギッシュなパワーに満ちた作品です。さすがに『小覇王』には及びませんが、技の応酬よりも勢いを重視したアクションの数々は、とても見応えがありました。
特に凄まじいのが終盤のマラソンバトルで、30分近くにわたって延々と戦いが繰り広げられています。楊斯を下し、唐天希を倒し、車で逃げる山怪を追う張力ですが、この追跡シーンが異様に長いのです(なんと約8分もあります)。
 全力疾走する車に対して、張力はひたすら徒歩で走り続けます!マラソンバトルとは走りながら戦うスタイルのことですが、本当にマラソンをするバトルがあるとは驚くしかありません。ヤケクソ気味に走り続ける張力が本当に辛そうで、見ていて心配になってしまいました(爆
ただ、スケジュールの関係か楊斯の出番は少なく、張力との本格的なタイマン勝負は『小覇王』までお預けとなります。アクション以外は非常に地味な作品ですが、ノンスター映画としては上々の出来だったのではないでしょうか。
 この当時、楊斯はTVドラマの『闘え!ドラゴン』『Gメン75』にも出演しており、確実に知名度を高めていました。しかし時が経つにつれて、フォロワー作品よりも悪質なタイプの映画からオファーがかかるようになってしまいます。そう、バッタもん李小龍ブームの到来です。
基本的に仕事を選ばないスタイルの彼は、いいようにバッタもん映画で使いまわされ、70年代の終わりから80年代の前半にかけて15本以上もの作品に関わっていきます。その一方で楊斯は、自分にとって未開拓であったジャンルへ挑戦するのですが…。
(次回へ続く!)

『スティル・ブラック』

2013-02-08 23:10:07 | カンフー映画:佳作
「スティル・ブラック」
原題:碧血藍天
英題:THE BLACKSHEEP AFFAIR
製作:1998年

●中国軍の工作員である趙文卓(ウィン・ツァオ)は、たった1人でハイジャック事件を解決したものの、独断専行の積を問われてラベニアにある中国大使館に飛ばされてしまう。着任早々、彼は親友の王合喜(ケン・ウォン)と共に某カルト教団教祖・連凱を逮捕するが、ラベニアは対アジア感情が最悪な国であり、手柄を現地の保安局に横取りされることに…。
そんな中、趙文卓はかつて天安門事件で国外脱出した元恋人・舒淇(スー・チー)と再会する。しかし国家に忠義を尽くす彼は国を捨てた彼女を許す事ができず、辛く当たってしまった。一方、密かにテロを支援していたラベニア保安局長は、連凱に自分の正体をばらされることを恐れ、彼を抹殺しようと企んでいた。
 そしてラベニアの教団支部もまた、教祖を救出するため暗躍を開始していく。連凱は趙文卓を仲間にしようとするが断られ、その報復として各地でテロを引き起こした。まさに修羅場と化すラベニア国内だが、中国大使館としてはラベニア沖に停泊している中国の難民船を救助したい思いもあった。
そこで保安局長は難民船を助ける交換条件として、連凱の護送という厄介な任務を中国大使館に(半ば脅迫する形で)押し付けた。教祖救出のために暴れまわるラベニア教団支部、この混乱に乗じて邪魔者を一掃しようとする保安局長、そして己に課された任務を遂行すべく戦う趙文卓たち。三者三様の想いが交錯する中、戦いは意外な結末を見せる…。

 90年代の古装片ブームから現在までコンスタントに主演作を連発する、趙文卓主演のクライムアクションです。この作品で武術指導を担当したのは、数々の古装片でワイヤーアクションを演出した程小東(チン・シウトン)ですが、本作では地に足を着けたリアル・ファイトを構築していました。
当時の程小東はワイヤーで人を飛ばすことに執着しており、武侠片でも現代劇でもその傾向は顕著でした。しかし本作では飛行機内で展開される趙文卓VS熊欣欣(ホン・ヤンヤン)から始まって、地下鉄の駅と終盤で2度に渡って展開される趙文卓VS連凱など、白熱した肉弾戦を構築しています。
 海外ロケの効果も抜群で、政情不安な北欧の小国という混迷したシチュエーションを、迫力ある群集シーンや爆発で見事に描ききっていました。また、天安門や日本で起きた例の事件、そして当時話題になっていた難民船などの時期ネタを取り入れ、ストーリーに緊張感を加味しているのも興味深かったですね。
しかし、やたらと本作にはご都合主義的なシーンが多く、先述の長所を潰してしまっています。主人公の親友と元恋人が辺境の国にいるという偶然、バーのマスターである曾江(ケネス・ツァン)が教団支部長という唐突な設定、ラストで何の伏線もなしに保安局長の悪事が露見するなど…欠点を挙げたらキリがないのです。
主人公の足を引っ張ってばかりの舒淇といい、もうちょっと人物の書き込みが欲しかったと言わざるを得ません。逆に言えば、そこさえ徹底していれば傑作になれた可能性が十分あったのですが…。

『新・霊幻道士 風水捜査編』

2012-11-12 23:21:07 | カンフー映画:佳作
「新・霊幻道士 風水捜査編」
原題:驅魔警察/驅魔探長
英題:Magic Cop/Mr Vampire 5
製作:1990年

●麻薬密売人の女が大勢の警官をなぎ倒した末に、トラックに衝突して死亡するという衝撃的な事件が発生する。刑事の林俊賢苗僑偉(ミウ・キウワイ)は、このあまりにも現実離れした出来事に困惑していた。
そんな彼らの前に、先輩警官の林正英(ラム・チェンイン)が姿を現した。林正英は妖術を操る霊幻警官で、彼と旧知の仲である警察署長・午馬(ウー・マ)の命により、今回の捜査に協力することとなった。
 林正英は姪の王美華と共に林俊賢の自宅へ押しかけるが、妖術を信じる苗僑偉はともかく、軽薄で現実主義者の林俊賢は面白くなさそうだ。その後、様々な妖術を駆使して調べた結果、この事件は日本人の妖術師・西脇美智子が裏で糸を引いていた事が判明する。
かくして、中国と日本の妖術が激しくぶつかりあうサイキック・バトルが始まった。西脇は林正英らを執拗に狙い、無謀にも本拠地に乗り込んできた林俊賢を妖術で氷漬けにしてしまう。林正英は奥の手である魔鏡をたずさえ、最後の戦いに挑むが…?

 本作は『霊幻道士』シリーズの名を冠した作品ですが、おなじみのキョンシーは出てきません。確かに使役された死体が暴れまわったりしますが、手を伸ばしてピョンピョン飛び回るような仕草はせず、どちらかというと妖術バトルがメインとなっています。
また、日本版のパッケージには第1作の道士さまがデカデカと載っていますが、劇中で林正英がこんな格好をするシーンもありません。では、本作は名前だけのガッカリ作品なのかと思ってしまうところですが、これが意外にもなかなかの力作に仕上がっていました。
 一番の見どころは、なんといっても奇想天外な妖術の数々です。光学合成こそ控えめですが、妖術の描写に関しては本家『霊幻道士』シリーズと比べても遜色は無く、ゾンビ化する西脇美智子も第1作のキョンシーを彷彿とさせます。
登場人物も賑やかで、厳格だけど『霊幻道士』よりも砕けた感じの林正英、言う事はきついけど林正英たちを信じている午馬がいい味を出していました。もちろん功夫アクションもあり、クライマックスでは林正英が周比利(ビリー・チョウ)と大立ち回りを見せています(惜しむらくは、林正英と西脇氏の肉弾戦が無かった事でしょうか)。
看板に偽りアリな作品ですが、キョンシーは出ないのにキョンシー映画のテイストを上手く残している点については、もっと評価されてもいいはず。もしかしたらプロデューサーも兼ねた林正英の意向によるものだった…かもしれませんね。決して悪くはない出来なので、キョンシー映画ファンならずとも充分楽しめるかと思います。

『電脳警察 サイバースパイ』

2012-06-19 23:18:02 | カンフー映画:佳作
「電脳警察 サイバースパイ」
「電脳警察 CYBER SPY」
原題:公元2000 AD
英題:2000 A.D.
製作:2000年

▼香港四天王の一角を担い、唄って踊れる俳優として一世を風靡した郭富城(アーロン・クォック)。彼は武侠アクションからラブストーリーまで幅広いジャンルの映画に出演し、現在も第一線で活躍を続けています。
本作はそんな郭富城が『SPY_N』と同じ時期に出た作品で、こちらでも凄まじいアクションを演じています。これら陳嘉上(ゴードン・チャン)監督による骨太なアクション描写の数々は、『SPY_N』とはまた違ったインパクトを残していました。

■郭富城は友人の呉彦祖(ダニエル・ウー)と共に小さな会社を経営しているが、仕事そっちのけで遊ぶせいでいつも金に困っていた。そんな彼の元に、アメリカでコンピュータ関連の企業に勤めている兄・呂良偉(レイ・ロイ)が帰って来た。
頼りになる兄との時間を楽しく過ごす郭富城。ところが、彼らは突如として香港警察に拘束されてしまう。刑事の呉鎮宇(フランシス・ン)は「呂良偉にスパイ容疑がかけられている」と言うが、もちろんまったく身に覚えのない出来事であった。
 その後、郭富城は無関係ということで釈放されたが、護送されようとしていた呂良偉が謎の暗殺者・慮恵光(ロー・ワイコン)に殺害されてしまった。アメリカから兄の婚約者である郭妃麗(フィリス・コク)が帰国する中、郭富城は兄が隠していた貸し金庫の鍵を発見する。
兄はどうして捕まり、そして暗殺されなければならなかったのか?真実を求めて奔走し続ける郭富城は、やがて警察・シンガポール軍・CIA・そして犯罪組織と対峙していくこととなるのだが…。

▲まるで特撮作品みたいな邦題ですが、作品そのものは凶悪な破壊プログラムを巡る攻防戦であり、トラブル巻き込まれ式のスリリングなストーリーが展開されていきます。
正直言って序盤は少々退屈な展開が続くんですが、呂良偉が殺される辺りから作品の雰囲気が変わり始めます。矢継ぎ早に繰り広げられる銃撃戦と、次から次へと示される謎。舞台がシンガポールに変わってからは更にアクションが増加し、なかなかの盛り上がりを見せていました。
 次にアクション面ですが、こちらは全体的に銃撃戦が多め。これら一連のガンファイトでは、着弾で穴が開いたり血飛沫が飛び散ったりするなどの細かい演出により、異様に殺気のあるバトルに仕上がっています(呉鎮宇の最後に号泣!)。
もちろん格闘アクションもしっかり用意されていて、特にクライマックスでの郭富城VS組織のリーダーである連凱(『スティル・ブラック』のボス)の激闘はその最たるもの。豪快なカーチェイスも含め、アクション面は充実していたと言えます。
 ただし物語の展開がかなり速く、ちゃんと前後関係を把握してないと解りにくい箇所も存在します。また、ゲームおたくの郭富城がやたら強いという点も不自然に思えました。これはゲームのおかげで戦いの素養があった…ということなのかな?
呂良偉を殺した張本人である慮恵光がのうのうと逃げ延びるという点も腑に落ちませんが、それ以外は概ね良好。実に香港映画らしいアクション活劇なので、一見の価値はあると思います。

『火鳳凰』

2012-04-20 22:24:26 | カンフー映画:佳作
火鳳凰
英題:The Red Phoenix
製作:1978年

●ここは密かに反政府活動を行っている功夫道場。盟主の王侠以下、姜大衛(デビッド・チャン)龍世家(ジャック・ロン)が在籍している。姜大衛の幼馴染である上官靈鳳(ポリー・シャンカン)、功夫の腕はからっきしな李道洪も彼らの仲間だ。しかしこの李道洪、どうも弱いフリをしているだけらしいのだが…。
ある日、奇怪な赤い仮面の怪人によって、反政府グループのメンバーを狙った連続殺人事件が発生する。姜大衛は李道洪が犯人ではないかと疑うが、彼の身内である上官靈鳳はこれを否定。しかし仮面怪人の凶行はなおも続き、とうとう王侠までもが犠牲になった。
 上官靈鳳は火鳳凰という秘密兵器(鳥の形をしたヘンテコ武器)を持ち出すが、仮面怪人には歯が立たない。そしてついに仮面怪人は姜大衛に襲いかかるが、そこに容疑者と思われた李道洪が救援に現れた。彼はこういう事態が発生した時のために、わざと実力を隠していたのである。
こうして李道洪の容疑は晴れたが、新たな事実が発覚する。実は王侠は死んでおらずで、しかもその正体はなんと日本人!仮面怪人こそ王侠の化けた姿であり、使用人になって潜んでいた楊烈と共に反政府グループ壊滅を目論んでいたのだ。姜大衛と上官靈鳳は決戦に向けて特訓を行い、見事に王侠を倒した。ところが……。

 香港最大の映画プロダクションとして名を馳せたショウ・ブラザーズ。本作は、そのショウブラで花形スターとして活躍していた姜大衛が、台湾に出向いて出演した作品です。内容は謎解き要素を含んだサスペンスタッチの活劇で、仮面怪人の正体が重要なポイントとなっています。
あまりスケールの大きい作品ではありませんが、テンポのいいストーリーと巧みなアクション描写のおかげで、なかなかの力作に仕上がっていました。仮面怪人に殺される犠牲者には岳華や羅烈(ロー・リェ)などが扮しており、戦闘時のシチュエーションも工夫に富んでいます(個人的には仮面怪人VS壁虎功で闘う黄國柱の一戦がオススメ)。
ただ、主役のわりに姜大衛と上官靈鳳が目立っておらず、特に上官靈鳳は終盤までアクションをほとんど見せません。後にも先にも2人の共演が実現したのは本作だけなので、主役まわりの演出にも注力して欲しかったのですが…う~ん。