猫じじいのブログ

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日本学術会議会員の任命拒否は民主主義の否定――山極寿一

2020-10-23 23:41:11 | 日本学術会議任命拒否事件


菅義偉が日本学術会議の推薦を受けた会員候補6名の任命を拒否したことが、9月29日に明らかになった。これまで、日本学術会議の要請にかかわらず、菅は任命拒否の理由を明らかにしてない。

菅は、任命権が総理大臣にあるから会員を自分の好き嫌いで選べると思いこんだのであろう。彼にとって残念なことに、日本学術会議法はそうなっていない。

第7条に「会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とあり、第17条に「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする」とあるから、選考権は日本学術会議側にある。

このことは、法案を審議したときの政府答弁でも、総理大臣が選考できないことを確認している。

総理大臣が、「規則」や「内閣府令」や「法」を無視して、自分の好き嫌いで会員を選ぶなら、民主主義のルールを踏みにじることになる。任命を拒否する正当な理由があるなら、それを公表し、「規則」や「内閣府令」や「法」を修正すればよいのであって、総理大臣は独裁者のようにふるまってはいけない。

山極寿一は10月22日の朝日新聞の《科学季評》『学儒会議問題と民主主義 全体主義への階段上がるな』で、なぜ、日本学術会議から公費で活動しながら、総理大臣から独立して活動する(第3条)必要があるのか、を説明している。

〈 社会が誤った方向へ進んだ時、軌道を修正するには別の選択肢をなるべく多く持っている必要がある。そのために、現代に行なわれていることが最上のものではないとする考え方も必要なのだ。人文・社会科学は社会の多様な選択肢を示すことで、レジリエント(強靭で弾力性に富む)な未来をもたらしてくれる。 〉

(蛇足だが、ここの「現代」は「現在」の誤記ではないかと思う。)

私はIBMの研究所にいたが、IBMではDevelopment LabとResearch Labとを分けていた。組織も場所も異なる。これは、Research LabがDevelopment Labと別途の選択肢を出すためである。Development Labは現在の世の中の多数派の考えに基づいて技術や製品を開発する。しかし、もしかしたら、それは行き止まり、滅亡の道かもしれない。会社が強靭で弾力的であるためには、会長や社長の指示を聞かない組織が必要だということで、Research Labを会社に設置したのである。

日本学術会議は、3部会からなっており、第1部が人文・社会科学、第2部が生命科学、第3部が理学・工学である。今回の任命拒否は、第1部で起きている。菅は、人文・社会科学は不要だと安易に思っていたのだろう。

「科学」とはドイツ語のWissenshaftの訳で、深い観察と考察から導かれた知の体系を指し、「学術」と同義語である。日本学術会議も、第1部は、人間集団が作った歴史や社会に対する学術研究者から、第2部は、生物個体の人間を対象とする学術研究者から、第3部は、自然を対象とする学術研究者から、構成される。

自民党議員やその応援団は誤った情報(ウソ)を世の中にばらまいて、法を破った菅を支援しているが、それは民主主義の死を招く行為である。

「年間予算10億円は多すぎる」というが、欧米の学術会議は非政府組織だが、法律で設置され、10倍から20倍の公費で運用されている。全米科学アカデミーは約210億円(うち8割が公費)、英国王立協会は約97億円(うち7割弱が公費)。

また、日本学術会議の会員は210名だが、会員は正規の公務員でなく、会議の出席に日当と交通費が支給され、年間30万円程度の支給である。会員全体で6千万円強である。正規の公務員ではないので、給料も年金も退職金も出ない。

また、学術会議は活動していないと言うが、最近1年間で80件超の提言や報告を公表している。

また、中国が外国人研究者を集める国家事業「千人計画」に「日本学術会議が積極的に協力している」のは全く嘘である。日本学術会議は一切参加していない。日本学術会議が外国の学会と接触するためには、政府の認可が必要となる。法の規定である。

しかし、いっぽうで、欧米と同じく、中国、台湾、韓国は積極的に国際学術会議を開き、日本国内の研究者個人を招待し、交通費、滞在費を払っている。学術の世界に国際的な交流は必要なのだ。日本政府が、中国、台湾、韓国の国際的学術会議に参加する費用を支給するなら、相手国に支給してもらう必要はない。

とにかく、自民議員とその応援団がうそを恥ずかしげなくついている。日本学術会議前会長の山極寿一や元会長の大西隆が、菅の態度に、民主主義の危機を感じるのは当然のことである。


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