猫じじいのブログ

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線幅7ナノメートルのチップをファーウェイがスマホに搭載、半導体戦争

2023-09-23 18:07:00 | 科学と技術

9月の始め、中国の中国通信機器大手ファーウェイ(HUAWEI)が 最新スマートフォン「Mate 60 Pro」に高性能の半導体チップを搭載した、とブルバーグとロイターが報じた。高性能とは、線幅7nm(ナノメートル)のチップのことである。チップは中国メーカのSMICが生産していた。

このニュースは、いろいろな疑問を私に投げかける。

アメリカは中国メーカのファーウェイとSMICへの半導体技術の輸出規制をかけている。ブルバードとロイターは、中国が独自に高性能の半導体チップ生産技術を確立したのか、それとも、誰かがアメリカの対中国輸出規制を破ったか、問うている。

いっぽう、私には、アメリカの半導体技術の中国への輸出規制は正当なことかという、疑問がある。

また、線幅7nmとは、どれだけ難しい技術なのか、という素朴な疑問もある。

さらに、台湾、韓国、中国と比べて、日本の半導体チップの生産技術はどの程度のものか、との疑問も浮かぶ。これは、日本が高性能のチップをなぜ大量生産できないかの疑問につながる。

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ITの会社を退職して15年の私にとっては、線幅7nmの半導体チップは驚異的なものである。7nmとは、0.000007㎜(ミリメートル)である。

半導体チップを量産するためには、シリコンウェハーの上にスタンプを押すように電子回路パターンを刻んでいかないといけない。私の若いときは、光学的な写真技術と同様に、回路パターンの刻んだガラス乾板(マスク)を、感光材のぬったシリコンの上に、レンズを使って縮小投影して、感光した部分をとり除く、あるいは、感光していない部分をとり除いて、回路を刻んだ。出来上がる線幅は、光の波長が限界となる。それで、紫外線(380nm以下)を使うようになった。

より波長の短い光源、それを曲げるレンズ素材、対応する感光材とエッジング技術を求めて開発競争が始まった。

線幅12nmがレンズによる限界と言われる。そこまでは、屈折率の高い液体の中で露光する技と合わせて実現できた。ところが、それ以下では、レンズを使って実現できない。10nm 以下は、昔はX線と言っていた波長だ。

望遠鏡に反射望遠鏡があるように、じつは、レンズを使わないでも、光を集約できる。10nm以下の線幅のチップを作るには、反射鏡を組み合わせた露光装置を使う。ところが、この露光装置を製造している会社は世界でオランダのASMLの1社だけである。日本のニコンも露光装置を販売しているが、レンズ系で、10nmの線幅を実現できていない。

9月20日のロイターの記事では、誰かが輸出規制を破ったのではなく、中国のSMICが独自にその技術を開発したと研究者らが称賛したと報じている。

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それでは、線幅7nmが最先端のチップだろうか?答えは否である。

私が、昨年の3月、通信事業のauからタダでもらったスマホ、格安のOPPO A54 5Gのプロセッサーは線幅8nmだ。

現在、最先端のスマホは線幅3nmのチップを使っている。ただ、価格帯が20万円近くのスマホになると息子はこぼしている。高いのである。

インテルの最新チップも3nmである。

台湾のTSMCは線幅2nmの量産を目指して工場を台湾内に建設中である。シリコン原子とシリコン原子の結合距離は0.235 nmであるから、線幅は限界にほぼ近づいている。

たぶん、今後は、線幅より、生産コストが課題になると私は思っている。

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日本のチップ量産の実績は線幅40nmである。日本は世界の量産技術から大幅に遅れている。

日本の自動車業界は、サプライチェンの安定確保の観点から日本政府に働きかけ、台湾メーカTSMCの工場を熊本に建ている。日本政府による資金援助やインフラ整備のもと、来年の末には、TSMCの工場が 日本で 線幅12nm、16nm、22nm、28nmのチップを生産する予定という。

いっぽう、昨年の12月、日本に国産の新会社ラピダスが立ち上がった。2027年に線幅2nmのチップを量産するという。大前研一、古賀茂明はラピダスが必ず失敗すると言っている。私も成功が難しいと思う。

量産技術は現場の経験がものをいう。それに、どれだけ安く量産できるかが、今後勝負になる。資金が続くかに加え、台湾、韓国、中国がどうやって生産コストを抑えているか、の研究をしているのだろうかが、私には疑問である。

1980年代、日本の自動車メーカーが破竹の勢いで低価格の車を生産したとき、アメリカの研究者たちはトヨタの「ジャストインタイム」生産システムを調べ上げ、アメリカの自動車産業を復活させた。

日本の経営者が半導体チップの量産技術に投資しない理由は、1つはアメリカ大手の経営戦略をまねていること、1つは価格競争に勝てる自信がないことである。

20年前から、現場経験のある日本の技術者は、台湾、韓国、中国にちらばって、それぞれの国のメーカーが半導体チップの量産体制を立ち上げるのを助けた。現在、ときはすでに遅しで、日本に現場経験のある技術者は少なくなっている。

失敗を広げないためにも、日本の経営者には、半導体チップ量産の周辺技術、製造装置、測定装置、材料の現場の技術者を大事にしてほしい。

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アメリカ政府は、半導体チップを軍事技術として、中国への製品や技術輸出を禁じ、それを日本を含む他国に強要している。私は、それを正しいと思わない。

軍事兵器は消耗品である。格安で大量に生産できる必要がある。最先端の技術の輸出を禁じられても、時代遅れの格安技術で兵器を大量に生産するだけである。

技術輸出を禁じても、世界に広がったサプライチェンをゆがめるだけである。禁じれば、自由競争から排除された国では、採算性を無視した形で、逆に自主技術が成長してくる。だから、自由貿易を守るべきである。

アメリカの民主党は、自国の産業を保護するために、必要以上に中国の危険を強調していると私は考える。

日本政府も、アメリカ政府をまねて、台湾が中国の傘下にはいっても、自動車のチップの供給が途絶えないように、台湾メーカーの工場を熊本に建ててもらっている。これを経済安全保障という。しかし、台湾有事が起きれば、自動車の需要そのものが激変し、チップの供給難どころではないだろう。



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