日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 月曜ですから気楽にいきましょう。今回はまあ邪推というか下衆の勘繰りのようなものですから、気楽に読み流して頂ければ幸いです(それにしては長文ですけど)。

 中国・山西省のレンガ工場で誘拐・拉致された子供が強制労働に従事させられていたという事件、中国国内に一大センセーショナルを巻き起こし、いまなお続報が飛び交う状況。日本でも報道されているので御存知の方も多いと思います。「下衆の勘繰り」とは、この事件をちょっと斜に構えて眺めてみようという訳です。

 まずその事件の概要について、日本の報道から。詳細は下記各記事のURLに飛んで全文を参照して下さい。



 ●中国:レンガ工場、子供1000人誘拐して強制労働 経営者側120人拘束(毎日新聞東京朝刊 2007/06/16)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20070616ddm007030105000c.html

 【上海・大谷麻由美】中国山西省臨汾市の複数のレンガ工場で、誘拐された子供たち1000人以上が強制労働をさせられた上、虐待を受けていると、中国各紙が15日一斉に報じた。

 子供たちは国内各地で誘拐され、レンガ工場に500元(約8000円)で売られていた。両足をやけどしたり、手の指を鉄製の器具で縛られた子供たちもいた。粗末な身なりで荷車を引き、夜は脱走できないように監禁されていた。

 事件は子供が行方不明になった河南省の親400人が、レンガ工場から子供の救出を求める連名の声明をインターネットで発表し、同省の地元テレビ局が調査報道を行って明らかになった。

 山西省では4年前にも同様の事件が発覚した。背景には、地元政府、公安当局、企業の癒着が指摘されている。

 中国政府も事態を深刻に受け止め、胡錦濤国家主席の指示で15日には、警官約5000人が捜索に出動。これまでに、知的障害者を含む成年、未成年の労働者計約380人を保護し、工場経営側の約120人を拘束した。

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 ●拉致された子、強制労働 中国当局600人保護(asahi.com 2007/06/18/17:29)
 http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY200706180186.html

 中国各地で拉致された子供たちがれんが工場などで過酷な労働を強いられていた実態が判明し、山西、河南両省の公安当局は省内にあるれんが工場など1万カ所以上の一斉捜索を開始した。18日までに子供や知的障害者を含む約600人を保護、工場経営者や拉致実行者ら約170人を拘束した。同様に拉致された被害者は1000人を超えるとみられており、公安当局はさらに捜索を進めている。

 国営新華社通信などによると、拉致グループは、鄭州市など大都市のターミナル駅周辺で未成年や職を探す労働者らに「仕事がある」などと誘い、拉致していた。被害者は400元(約6000円)~500元で工場に売り渡されていた。

 被害者はわずかな食事を与えられただけで、厳重な監視下で早朝から深夜まで15時間以上も無償で働かされていた。12歳の少年や70歳の高齢者も含まれていた。全身にやけどを負っている被害者も多い。
(後略)

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 ●中国:「虐待工場」経営者父は党村幹部 警官に口止め料払う(毎日新聞東京朝刊 2007/06/21)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20070621ddm007030058000c.html

 (前略)
人権侵害と汚職が重なる事件への国民の批判はインターネット上で大きくなっており、党指導部も危機感を強め、胡主席、温家宝首相が徹底解決を指示した。

 新華社通信は18日、今年に入って同様の事件が広東省恵州市、黒竜江省ハルビン市、同省伊春市でも発覚したが、地元公安が見逃していたと指摘。未解決の事件が多数あることをにおわせた。

 山西省の事件ではこれまでに、労働者1人の死亡が確認され、未成年者を含む約600人が救出された。労働者の一部には、地元政府から給料と賠償金計約2400元(約3万9000円)が支払われた。工場経営者の父親である党村支部書記に対しては、免職と党籍はく奪の処分が下された。経営者側は約120人が拘束され、約20人が現在も逃走中だ。

 事件は、河南省の親400人が子供の救出を求める声明をネット上で発表し、同省の地元テレビ局による調査報道で明らかになる完全な「民主導」だった。




 えーと、この事件報道に接しての、私の感想。

 ●何だいよくある話じゃねーか。
 ●ネット上で大反響とか言われてもねえ。
 ●完全な「民主導」?どーだか。

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 まずは「よくある話」ですが、この種の事件は上記引用記事がふれているように本当に全国各地で発生しています。実は山西省でも以前からたびたび類似例が起きており、今年5月にも出稼ぎ農民が騙されてレンガ工場で強制労働させられていた、という事件が報じられています。

 ●「大洋網」(2007/05/15/17:33)
 http://china.dayoo.com/gb/content/2007-05/15/content_2827663.htm

 ●「光明観察」(2007/06/07/12:45)
 http://guancha.gmw.cn/show.aspx?id=4663

 今回は子供が被害者ということがネット世論や民衆の同情を買った訳で、要するにマスコミ的には「画になるニュース」てなところです。

 で、ネット上での反響がものすごく大きかった、というのは事実ですし、いまもそれは続いています。ただし中国のネット人口は1億数千万人でちょうど日本の総人口と同じくらい。中国は13億人の人口大国ですからネットは全体のわずか1割のみが利用できる特別な媒体ということになります。

 要するに中国というのは一面に「農村」という黒々とした闇が広がっており、そのあちらこちらで豆電球のようにポツンポツンと光っているのが「都市」です。この都市とその周辺の近郊型農村が主としてネットの恩恵を受けられる地域。

 私たちが映像などで目にする「中国」もこの「都市&近郊型農村」が中心です。「ネット上で大反響」というのは事実ながら、そのネットそのものが非常に限定された媒体であることを覚えておいて損はないと思います。

 黒々と広がる闇の「農村」でこの事件について感想を求めたら、違ったニュアンスの反応が得られるかも知れません。

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 「完全な『民主導』」というのは、今回の事件は被害者である子供の父親たちがネット上で救済を訴える声明をある掲示板で発表し、このスレッドが立ってからわずか6日でヒット数が58万、ついたレスが3000余りに達したことによります。

 それを地元山西省のテレビ局が報道していよいよ反響が大きくなってから役人が動いた、ということで「民主導」と言いたいのでしょうけど、少なくともテレビ局は「党・政府の代弁者たること」という中国独特のマスコミの定義づけに照らせば「民」ではありません。

「中国各紙が15日一斉に報じた」

 というのも、「一斉に」ということから党中央からゴーサインすなわち報道解禁が出た、との背景があるのかも知れません。

 ちなみにネット上で検索したところによると、「子供の強制労働」が報じられたのは6月12日~13日からで、「15日」というのは誤りではないかと思います。

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 この6月12~13日から始まる中国国内メディアの大津波的報道でトクをしたと思われる人たちがいます。北京五輪関連グッズのライセンス生産を行っている企業4社です。

 4社はその記念グッズの製造において12歳を含む少年工多数を、最低基準の半額という激安賃金で苛酷な労働に従事させていました。……と、国際組織「The Playfair Alliance」(国際労組連盟?和名不詳)が告発・指弾しました。

 中国側にとっては痛い告発だったようで、北京五輪組織委員会が即時対処の姿勢を示しました。そのことが6月11日の香港紙『明報』電子版によって報じられています。

 ●『明報』電子版(2007/06/11/214:08)
 http://www.mpinews.com/htm/INews/20070611/ca11408w.htm

 ●『明報』電子版(2007/06/11/18:30)
 http://hk.news.yahoo.com/070611/12/298mz.html

 翌12日の『明報』がこれを詳報。告発した団体名が「国際労働組合総連合」(ITUC)に改まっていますが、このITUCのレポートによって4企業の実名が示され、「仕事は休みなしで毎日15時間、給与は基準の半額」という働いていた少女の証言もあります。北京五輪組織委はこれに対し、事実なら関連契約を打ち切るとの意向を表明。この反応の速さと内容の厳しさに、北京五輪組織委側の「ヤバい」感が伝わってきます。

 ●『明報』(2007/06/12)
 http://hk.news.yahoo.com/070611/12/2991r.html

 ●『明報』電子版(2007/06/12/20:44)
 http://www.mpinews.com/htm/INews/20070612/ca22044t.htm

 そして、前述の「山西省誘拐した子供をレンガ工場で強制労働」事件はこの6月12日から大々的な報道がスタートします。……いや、単なる偶然かも知れませんけど、下衆の勘繰りが今回の主題ですから(笑)。

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 中国国内のメディアが山西省の事件を報道してからの「官」の対応は比較的迅速だったといっていいでしょう。

 山西省当局が現場と地元当局に対する捜査に着手し、最高指導者である胡錦涛・国家主席と温家宝・首相が事件の全容解明を指示。中央政府からも特別調査チームが現地入りして関係者が続々と逮捕され、6月22日には中央政府と山西省政府による中間報告ともいえる共同記者会見が開かれています。

 この記者会見で山西省の于幼軍・省長が事件の被害者に謝罪までしています。それから山西省人民に向けて監督不行届を自己批判。さっさと謝ったもんですねえ。2005年春の反日騒動では中国政府が日本側に謝罪ひとつしなかったことを思い出します。

 下記関連記事のうち3本目は于幼軍の謝罪・自己批判を単体で扱った記事です。単体で扱うに足るインパクトを持った行為、ということになるでしょう。

 ●「新華網」(2007/06/22/20:08)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-06/22/content_6278428.htm

 ●「新華網」(2007/06/22/20:45)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-06/22/content_6279062.htm

 ●「新華網」(2007/06/22/19:48)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-06/22/content_6278847.htm

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 マスコミの一斉報道から始まってこの謝罪に至るまでの手際よさというか、段取りの良さがちょっと出来すぎているようにみえなくもありません。筋書きがあるかのような鮮やかさです。翌6月23日には事件の起きた臨汾市当局が、年内の幹部出国を禁止する措置まで打ち出しています。

 ●「新華網」(2007/06/23/20:08)
 http://news.sina.com.cn/c/2007-06-23/200813296013.shtml

 これをひとつのモデルケースにしようという意図と、省・自治区・直轄市レベルが「小諸侯」たる末端当局のやりたい放題を見過ごしているようだと痛い目に遭うぞ、というメッセージ。……中央がそれを狙っているように思えてなりません。

 要するに一種の「見せしめ」ですが、晒しものというニュアンスとはちょっと違うように思います。于幼軍の謝罪報道にもその潔さを讃えるかのような気配を感じます。

 なぜかといえば、それは于幼軍が胡錦涛の出身母体である共青団(共産主義青年団)人脈に連なる人物だからからも知れません。胡錦涛直系の「団派」であり、将来を嘱望されているホープでもあります。

 もし台本があったとすれば、「団派」だからこそ上演できたともいえますし、「団派」だから胡錦涛の内意を受けて素早く謝罪して、みそぎは済んだから于幼軍の更迭はなし扱いで落着、という線で事態を収拾しようというのが胡錦涛の意図ではないかと。この事件でむしろ于幼軍の株を上げようという狙いすらあったかも知れません。

 于幼軍を「ケガの功名」扱いで収拾を急ぐのは、アンチ胡錦涛グループの「団派」潰しに発展させないためです。5年に1度の党大会を秋に控えた時期です。そういう暗闘はいくらでもあるでしょう。

 ということは、逆にアンチ胡錦涛グループが「団派」潰しを意図して騒ぎ立てたとする見方も成立しますが、それにしては事件後の対応がサクサクと進みすぎています。

 ……今回は「下衆の勘繰り」ですからこういうキナ臭い話へと落とすことになりますが、だとすれば今回の事件、どのあたりからが胡錦涛サイドのシナリオなのかも興味深いところです。被害者の父親たちのネットでのスレ立てから仕込まれていたとすれば、これはもう見事としかいうほかありません。

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 という訳で、今回は斜に構えてみましたけど、その全てが一種の冗談という訳ではありません。斜に構えてみたくなるようなニオイを感じたから「下衆の勘繰り」をしてみたまでです。私は天の邪鬼ですから日本メディアの報道のように、中国側の発表を全て鵜呑みにする気にはなれないのです。

 そういう、そこはかとない「いかがわしさ」を今回の事件にはちょっとだけ感じています。それを膨らませて書いてみた、ということにしておいて下さい。




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