「羊肉の王様」とも言われるサウスダウン種を主体とした羊の生産が、富士宮市の障害者支援NPO「EPO(エポ)」が運営する農場で軌道に乗り始めた。農場は障害の特性に合わせて仕事を分担できるのがポイント。生産したラム肉は農場内の誰でも入れるカフェで提供している。
同市の市街地から車で約25分。森の中にEPOの農場はある。農場に足を踏み入れると、土の香りに包まれる。畑の中にあるカフェの裏手には羊や馬の飼育スペースが広がっている。
農場の奥にある少し薄暗い小屋が、自閉症の30代男性の仕事場だ。羊40頭分の朝夕2食と、馬9頭分の3食を毎日用意している。男性は計算が得意で、きちょうめんな性格。一方で動く物や人の声など周囲の環境に敏感なため、他の作業をしている人と距離をとれる小屋だと集中して作業ができる。えさの干し草は2種類をそれぞれ量って決められた分量にし、手でほぐしながらブレンドする。
小屋から少し離れた水場で道具を洗っていたのは知的障害のある40代男性。EPOに通う前には別の施設で問題行動を起こし、退所させられてしまうこともしばしばあったという。水に触れることが大好きなこの男性は、汚れた農機具などを丁寧に洗ってくれる。子どもたちや一般のお客さんも来るEPOにとって環境整備はなくてはならない仕事だ。
「ふじやまラム」と名付けた羊肉の生産にかかわるのは、知的障害や精神障害がある約20人。高橋智理事長は「農場にはたくさんの仕事があるので、それぞれの特性に合った仕事が見つかる」と農場型障害者支援の利点を話す。
「支援施設のイメージ変えたい」
ふじやまラムは2009年、周辺の耕作放棄地や廃業した牧場跡地を活用した障害者就労支援事業として始まった。「えさや飼育方法にこだわることで、利益の出せる商品を作りたい」との思いで羊を選んだ。
ただ、サウスダウン種は肉となる体が小さく繁殖能力が低いため、日本ではほとんど生産されていない。一方で臭みが少なく風味が豊かという特徴から、「希少性とおいしさで勝負できる」と考えた。
3頭から始めて少しずつ交配しながら増やし、現在は約40頭に。今年度は目標としていた年間24頭の出荷も可能になった。生産したラム肉は加工してホットドッグや生ハム、パテなどにし、農場内にあるカフェメニューとして提供。完全予約制のレストランにも少量卸している。
羊肉以外も余すところなく使う。羊毛を使ってコースターや帽子なども障害者が手作りする。独特なデザインが多く「このシリーズがほしい」と追加注文が入ることもある人気商品だ。EPOの農場は就労支援だけでなく、児童の発達支援・放課後デイサービスも行う。障害児らも羊と触れ合うことができ、まさに一石二鳥だという。
高橋理事長は「EPOでは動物に触れたり世話をしたりすることで、心が安定し、みんな生き生きと働いている。一般の人に多く来てもらって、障害者の就労支援施設のイメージを変えたい」と話す。

羊にえさをやる利用者ら

ふじやまラムを加工した生ハムやベーコン
2018年3月7日 朝日新聞