リオデジャネイロ・パラリンピックが開幕した。159カ国・地域と難民チームから史上最大の約4300選手が参加、自分の限界に挑戦する。それは人間の限界を超えて未来の可能性を開くものだ。本県から陸上の視覚障害者マラソン女子に西島美保子選手が出場する。決して平たんではない道を歩み続け、晴れの舞台に立ったアスリートたち。五輪に負けない熱い戦いと、五輪以上の感動が生まれることを期待したい。
障害者スポーツで特筆すべきは革新的な器具が続々登場していることだ。選手たちのスピードと跳躍力は健常者に劣らぬ素晴らしい記録を生みだしている。
開会式で国際パラリンピック委員会(IPC)のクレーブン会長は「選手の勇姿はあなたを変えるだろう」と全世界にメッセージを発した。選手や障害者だけではない。次世代のアスリートや人々の心、社会をも変えていく力がパラリンピックには宿っている。
132人を派遣した日本選手団の主将を務める車いすバスケットの藤本怜央選手は結団式後こう語った。「競技人として、スポーツでまだまだ伝えることがある。それがパラリンピアンとしての自分の役割だ」
相模原の障害者施設殺傷事件を受けての気持ちを込めたものである。容疑者は「障害者なんていなくなればいい」と犯行の動機を供述した。障害者に対する偏見と差別、排他性を助長する社会の風潮もある。困難な壁を乗り越えて戦う選手たちの姿を心に刻みたい。
雨中の開会式となった聖火リレーで転倒し、トーチを落とす場面もあった。スタッフに抱き起こされ、再び歩み始めた走者を包み込む大声援は、共生社会の重さを映し出していた。
今回のリオ五輪は国家主導のドーピングが暗い影を落とした。パラリンピックの選手でも行われていたとして、IPCはロシアを全面除外。「薬物が入り込めば大会の将来はない」と五輪以上の厳罰に処した。ロシアは前回大会で中国に次ぐ第2位の金メダル数だった。パラリンピックまで国威発揚に染まる現実に怒りを感じる。全世界の障害者選手に対する冒涜(ぼうとく)である。
開会式では就任したばかりのテメル・ブラジル大統領が激しいブーイングを浴びながら開会宣言した。汚職疑惑や国内の政治混乱に対する国民不満の根深さが浮き彫りになった瞬間だ。これも成熟した環境が整備されていない南米開催の困難な現実であろう。
日本は2020年東京大会に弾みをつけるべく金メダル10個を目指す。それも重要だが、運営面の安全性や膨らむ経費抑制などを学び取る機会でもある。
障害者には日常生活の中で気軽に運動できる環境も十分整わず、アスリートに対する指導者不足も課題とされる。障害者スポーツの発展へ、4年後には最高の舞台をつくり上げたい。
(2016年9月9日) 福井新聞