本当に税率アップで税収が増えるのか?
2017年4月に予定されていた8%から10%への消費増税実施だが、このほど見送りが決定した。14年にいったん増税延期を決めた際、安倍首相が「再度の延期はない」と断言していた経緯もあり、再延期には批判の声も根強い。しかし経済合理性という観点からは、ごく当たり前の政策判断といえる。
各種の税制の中で、消費税ほどダイレクトに消費に悪影響を与えるものはない。14年4月に実施された5%から8%への消費増税では、それまで順調に進んでいたリフレ政策による景気回復が一気に崩れ、14年度の実質経済成長率がマイナスに転落した。もし今回、増税再延期を決断していなければ、景気はますます失速し、安倍政権は早晩倒れていただろう。
見送り批判派は「予定していた財源確保ができず、政策実現に支障が出る」と懸念する。だが消費税率と税収の関係については、財務省もマスメディアも大きな勘違いをしている。
財務省はこれまで、「消費税率を8%から10%に上げれば、飲食料品などに軽減税率を適用したとしても、年4兆円台半ばの税収増が見込まれる」としていた。つまり「消費税率を上げれば、その分だけ税収は増える」という理屈である。
果たしてそうだろうか。消費税単体で見れば、確かに税率を上げた分だけ税収が増えるかもしれない。しかし消費税率を2%上げれば、GDPの6割を占める消費は、可処分所得が減るので2%以上減るだろう。
自動車や家電製品など耐久消費財の駆け込み需要の反動も、景気を冷やす要因になる。企業経営者は、いったん売り上げが大きく増えてから落ちるといった不安定な経営環境では、新たな設備投資には踏み込みにくい。
消費と投資の低迷で国内市場が縮小し、そのため企業の業績が下がれば、法人税収は一気に減る。また減益下では支払われる賃金も減り、個人の所得も低下する。所得税には累進性があるため、平均所得が下がるとそれ以上の割合で所得税収も落ちてしまう。つまり消費税の税率を上げれば、所得税や法人税が激減してしまうのだ。
今回の消費増税では、「保育所の拡張と保育士確保」「自動車取得税の廃止」「すまい給付金の拡充」「国民健康保険に対する財政支援」「介護職員の給与増」「低所得高齢者・障害者などへの年金の福祉的給付」などの施策が、増税と引き換えに実現するといわれてきた。

図1 消費税増税分で実現する、とされていた政策
保育所や保育士の数を増やし、保育士の賃金を引き上げるという子育て支援は、日本の将来を考えるうえで重要な政策である。それによって子供が増えれば、将来の税収増につながる。保育所を拡充すれば働く女性が増え、税収は上がる。
保育士の給料水準はこれまで他産業に比べて低水準といわれてきたが、所得が低い層で所得増が起きるとダイレクトに消費が伸びるという効果もある。その意味でも税収増につながる政策なのだ。
となると、一連の子育て支援政策に遅滞があれば、景気にとっても将来の税収にとっても悪影響が出ることは間違いない。だが、政府は「待機児童解消に向けた保育分野の受け皿整備は、予定通り平成29年度から実施する」と宣言しており、消費増税が実現しなくても、この部分は心配無用といえる。
介護士の給料を上げることも消費の拡大と税収増に直結する。子育て支援と違って介護士の待遇改善については、政府も積極的なコメントを出していないようだが、介護士は高齢化進行の中で今後、一段と不足することが明らかな職種で、定年退職者などの雇用の受け皿としても重要度を増していく。消費増税とは関係なく、社会政策として予算を投じるべきだろう。
他方、自動車取得税の廃止、すまい給付金の拡充については、中止しても問題はない。政策により一時的に住宅購入が増えたとしても、しょせんは需要の先食いにすぎず、その後は反動が延々と続く。特に持ち家取得への政策的な支援は、既存の仕組みを含め、なくしていくべきだ。
なぜなら、今後は人口減少に伴い全国で家あまりの状況が続き、中古住宅と住宅地の供給は増していく。供給過剰が進む住宅は、ごく一部を除いて値上がりしない不良資産となることが確実である。若い世代にローン完済まで何十年もかかる不良資産を抱え込ませることは、本人たちにとっても、日本経済にとっても望ましくない。
年金に関しては、財源不足を消費税収でカバーしようという発想そのものに無理がある。高齢化が急速に進行する中で年金制度を維持していこうと考えるなら、支給開始年齢を高くして受給期間を短くし、バランスを取っていくしかない。これは定年延長とセットで実施しなくてはならない。現在の60歳は、戦後間もなくの60歳とはまるで違う。まだ十分働けるし、働いてもらわねばならない。
いずれにしても、国が目指すべきなのは「税率を上げること」ではなく、「経済を成長させ全体の税収を増やすこと」。かつて高度成長期には、税率を上げれば税収も自動的に増えたものだが、成熟期に入った現在はそうではない。また、20%前後が一般的な欧米に比べて日本の消費税率は低いと言われているが、欧米と違って軽減税率がないため、実効税率としては見た目よりも高い。消費税率は8%で十分。増税は延期ではなく、中止とするべきだ。
家を買わなければお金を増やせる
さて、消費税率が上がろうと上がるまいと、お金を増やすための方策は簡単だ。収入の2割を「天引き投資」に充てればいい。貯蓄ではなく投資であることがポイントだ。貯蓄してもお金はまったく増えないが、投資なら増えるからだ。
お勧めしたいのは「ドル・コスト平均法」による積み立てだ。毎月2万円なり3万円なりで、ずっと同じ金融商品を買い続ける。値段の高いときは買える量が減り、安いときには増える。投資する商品にもよるが、5年もやっていれば、その間、相場が下がり続けでもしない限り、残高は必ず増えている。投資商品として私自身が気に入っているのは、インデックス型のREITである。
図2 勝間和代さんが勧めるドル・コスト平均法(定額購入法)とは?
天引き投資を続けるには、2割天引きされても生活できる習慣をつけることが大切だ。誰しも若いころは今より安い生活費で暮らせていたはずである。2割を投資に回せば、5カ月ごとに1月分、5年に1年分を投資に回せる。20年なら4年分だ。
ところが持ち家を買うとしたら、多くの人は生活資金ぎりぎりまでローンを組んでしまうため、その「2割」を拠出する余裕がない。先ほど持ち家奨励政策はやめるべきだと述べたが、それは1つには、天引き投資のような利殖の自由がなくなるからなのだ。