旧宮家の敷地は広大で、道を下っていくと長屋があり、
本来宮家に仕えるひとたちの住まいであったと思う。
私たち一家が官舎として与えられたのは、車道に面して格子窓のある門番のための家だった。
トイレはあったが風呂はなかった。
敷地は広かったので、家の横にドラム缶がおかれ、手づくりのすのこを敷いて風呂にした。
いうところの五右衛門風呂である。コツがあり、上手に入らないと火傷をするので、難しかった。
弟が言うには、あのころまだ表屋敷には元宮様が住んでいた、ぼく見たよとのことだが、
わたしには覚えがない。
別館の洋館があったが、ここは爆撃を受けていて、煉瓦の外観は残っていたが、中は空洞であった。
しかし地下に潜ると紋章のある椅子やテーブルなどが乱暴に積まれてあり、
わたしたち冒険ごっこで遊んだ。
ただし、親に見つかるとひどく叱られた。
危ない、どれもこれも崩れてきそうで確かに危なかった。立ち入り禁止のロープが張ってあった。