入院して末っ子を産んだ母を独りで見舞ったことがある。
なにか必要なものを届けに行ったのかもしれない。
わたしは小学六年だったが広尾の日赤病院まで電車ででも行ったのだろうか。
覚えているのは、道中の心細かったことと、小雪の舞う寒い日だったことである。
夕方になった帰りを案じて、母がウールの襟巻をわたしの首に巻き付けてくれた。
長女というのは母にかまってもらう機会が少なかったので
暖かいショールを首に巻いてくれる母の手は嬉しかった。
ベージュ色のショールと、いつにない優しいその日の母のことは長く忘れえずにいる。
末妹の誕生日は12月26日であった。