風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

菊子ちゃん

2018-08-02 10:27:39 | 昭和つれづれ

             

 振り返れば、80年生きてきた間には多くの友人と出逢ったが、

 はじめての親友は同潤会に住む菊子ちゃんである。

小学二年生から四年生で転校するまで同じクラスで、登下校時も一緒、学校から帰っても一緒に遊んだ。

わたしは五年生で港区高輪に引っ越したが、その後ひとりで電車に乗って遊びに行ったし

菊子ちゃんが遊びに来たこともある。短い間だが頻繁に葉書や手紙のやり取りもした。

しかし、哀しいことに、菊子ちゃんは六年生で突然病死した。

あのころ同潤会の事務所を兼ねていたのか、

菊子ちゃんの家には普通の家にはない電話があったが、うちにはなかった。

知らせは、葬式がすんでから菊子ちゃんのお母さんからの葉書で知った。

母に買ってもらった花束を持って、電車に乗りひとりで同潤会の菊子ちゃんの家まで行った。

おばさんと話しているとき電話が鳴って、おばさんが立っていった。

入口近くの壁に縦に据え付けられた黒い電話機、私が初めて見た電話機だった。

帰りにおばさんから菊子ちゃんが使っていた何かをくれたような気がするが、

それが何だったかはもう忘れた。遠い遠い日である。