monologue
夜明けに向けて
 



   ある日、父の友達で機械いじり好きのオマーチャンに向かいの家の離れに喚ばれた。なにかの機械を組み立てたらしくこのマイクの前でなにか喋ってくれ、という。わたしはどうしたらいいかわからずその時チューインガムを噛んでいたのでクチャクチャ音を立て、アホとかなんとかわけのわからない言葉を口走った。するとオマーチャンはわたしの立てた音を再生して聞かせてくれた。それはテープレコーダーという機械らしかった。帰宅した父にオマーチャンはわたしの声を聞かせた。その時わたしはわけのわからないことを口走っている自分の声を人に何度も聞かれるのがとても恥ずかしくなった。

 そしてしばらくして、父がナショナルのテープレコーダーを買ってきてこれを使え、と言った。友達のオマーチャンの自作テープレコーダーに触発されたらしかった。うちでも生活必需品ではないそんなものが買える時代になっていたのだ。わたしはテレビのスピーカーの端子にテープレコーダーの入力端子を接続してその日、映画「禁じられた遊び」が放映されていたので録音した。何度も再生してその主題曲を弾くナルシソ・イエペスのギターの音色に魅せられた。それが自分で聴きたい音楽を自分の意志で聴いた最初であった。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )