そう、我が家のカミさんはピアノ弾きなんである。
ゲイジュツ家なのだ。
元来クラシックが好きな固いサッチャーさんみたいな鉄の女なのだが、
童謡・唱歌なども同時に好み、町の老人会や、唱歌サークルなどで喜んで伴奏したりしている。
ピアノを弾くときの集中力たるや、人を寄せつけぬ迫力がある。
それがピアノひきというべきではあろうが・・・・。
亭主たる私もたじろぐほどなのだが、ピアノを離れると、単なるチョコレート好きの甘えん坊さんになったりする。
このギャップが実に面白かったりするんである。
そして私も少しばかりピアノを嗜む。
と云っても、まったくの素人ピアノでカミさんの弟子にも加えて貰えない程度の、ぬか味噌ピアノなのだ。
さらには、歌を唄いながらのピアノなので、ちゃんとした楽曲の演奏など出来る筈もないんである。
それでもピアノのある暮らしというのはけして悪くない。
晩秋のこの季節、即興で「枯葉」などを弾いて唄って聴かせたりすると、もとより音楽大好き人間の妻は大喜びするんである。
しかし、人間は全知万能のカミに非ず、うちのカミさんは多少料理に疎い面がしっかりと同居しているのもまた一興。
先日ブリの刺身を買ってきたら、ドーンとばかりにお頭付きだったので、
「これはスマシ汁にすると旨かろう・・・。」
と話したのが、そもそもの失敗の始まりであった。
次の日の夕食に大きな鍋に、そのスマシ汁が出来上がっていた。
家内はしてやったりとスマシ顔で、得意満面なのだ。
「ホーッ!お前もやる時はやるとたいねぇ・・・・。」
と褒め称えながら鍋の蓋を開けると、そこには大きなブリの頭がそのまま私を睨みつけていた。
「これは出刃包丁で頭を割って料理するもんだよ・・・・。」
私は思わず鍋蓋をガシャンと閉じて、しばし絶句。
それから優に30分は笑い転げた。
まあ、しかし、味は出ていたので、大笑いして食べたのではあった。
かくして、我が家は音楽と料理に妙な調和を図りながら、何とか楽しく暮らしている。
幸せとは日常のくらしの中にありなんである。
そして、音のあるくらしとは実にいいもんである。
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