北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「日本史の探偵手帳(磯田道史著・文春文庫2019刊)」を読んだ。磯田道史(いそだみちふみ1970生れ)氏は、慶應大学(文学部史学科)卒で、茨城大学、静岡文化芸術大学を経て、現在は国際日本文化研究センター准教授であり、“武士の家計簿(2003)”で作家デビューをしている。-----
日文研では、先輩の倉本一宏(日本古代史)、後輩の呉座勇一(日本中世史)がいるためか、「日本史の探偵手帳」では、大方が江戸時代、遡っても戦国時代以降が対象となっている。-----
江戸時代は歴史史料が数多く残っているので、論考はこれからも数知れず発表されるだろうけれど、現代とそれほど変わらない人間の息遣いが感じられるために、日本古代史のようなロマンは感じられない。このようにそれ程に面白くない江戸時代であるが、磯田道史氏の手に掛かると、“くの一は実在したのか”とか、“頼山陽が明治維新を起こした”とかの話題を提供してくれていて、探偵手帳のメモ書きというか歴史研究家の舞台裏を見せてくれているので、否が応にも読まずにはいられなくされてしまう仕掛けとなっている。-----
磯田道史氏は歴史を研究して来て日本の将来に向けて言えるのは、藤原正彦氏の“日本の品格”も大切だろうけど、矢張り南蛮人が感心した模倣の力、技術力で世界に貢献するのが一番なのだろうと、文系の人士としては珍しく理系の学問の重要性を説いている。