21世紀航海図;歴史は何も教えてくれない。ただ学ばない者を罰するだけ。

個人の時代だからこそ、個人を活かす「組織」が栄え、個人を伸ばす「組織」が潤う。人を活かす「組織」の時代。

アンカー効果

2010年08月31日 16時36分29秒 | Weblog
ボールペンが2本あるとします。例えば、AとBだとします。

で、通常Aは500円で売られているボールペンです。購入するためには500円支払わなければなりません。

そして、Bは500円貰えるボールペンです。ボールペンBを受け取ると500円分の商品券が貰えるとします。

ここで、もし地上からお金が無くなったとします。

ポールペンAは無料で配られています。

そして、ボールペンBを受け取っても1円も貰えないとします。

あなたはどっちのボールペンを使いたいですか?

おそらくほとんどの人がボールペン「A」を選ぶでしょう。


単純な話、これがanchoring effect です。
「Anchor」 ってのは「錨」のことです。海底に引っかけて船を止めておくのに使うやつのことです。Aには500円の価値がある。Bには-500円の価値がある。と心のどこかに「引っかかっている」のです。このため、Aを無料で貰えると500円得した気分になり、Bを受け取っても500円貰えないとその分を損した気持になるのです。
ほとんどの人は「損をしたくない」と思っているので、ボールペンAを選ぶのです。



実はこれが「仕事が楽しくない」最大の理由です。
仕事は「お金がもらえる」から楽しくないのです。「お金を貰っている」から、仕事はボールペンB状態になります。タダで貰いたくないからサービス残業はしたくないし、給料が同じなら出来るだけ楽な仕事をしたいと思うのです。

古い欧米式の成果主義が失敗する理由もこのanchoring effectにあります。
人間の心理として、成果主義の場合、
成果を出した分だけ給料を貰える ≒ 給料の分だけしか成果を出さない。
という気持ちが働きます。これだと、言われた仕事しかしない人ばかりになるので、企業全体の創造性・技術革新が停滞して、長期的に見た場合に業績が低迷します。


今では、このanchoring effectの影響が有名になってきたため、欧米企業では「成果主義」と言っても、業績への報酬を「現金以外の形」で出すようになっています。一般的に「業績への報酬は仕事で渡せ」と言われます。



頭の古い人は、「給料を貰って仕事をしているのだから、積極的に動け」と言う場合があります。Anchoring effectを全く理解していない人です。人の心の動きを理解していな人なので、好かれている可能性は低いでしょう。人間は給料を貰っているからこそ積極的に働きたくないのです。給料のために嫌々仕事をしている人ばかりになると、職場はギスギスします。



将来的に管理職になったとして、人を積極的に働かせようと思ったら、「ほめて・おだてる」ことが一番の近道です。これは人の心の中のsocial valueに働きかける方法で、anchoring effectの研究とは少し別の分野の話になります。

労働流動性の問題

2010年08月31日 13時00分27秒 | Weblog
前回ブログ↓↓↓に少し誤解があった。私の主張は「絶対的経済成長率が低いために、収入が伸びにくくなっている。にもかかわらず、多くの人が個人の実力不足で収入が伸びないと勘違いしている。」と言うことである。

そして、企業が採用数を減らしたり、給与水準を引き下げたりしているのは、社会構造変化の「結果」であって、「原因」ではないのである。

企業が人を雇わないからデフレになる、のではなく、デフレだから企業は人を雇わないのである。

例えば、人口が1000人の村があって、自給自足の生活を送っていたとする。
①今まで1000人全員で耕して、1000人分の食料を生産しているとする。

そこに耕運機が導入されて、20人で1000人分が食料を生産できるようになったとする。今まで1000人でやっていた仕事が20人で出来るようになる。

つまり、残りの980人は遊んでいても生きていけるようになる。


②遊んでいる980人の中にオシャレな人がいて、手の込んだ服を作り始めたとする。
最初は全てが「手織り」で、1000人分の服を作るのに980人が働かなければならない。でも、そのうち「機織り機」が導入されて、1000人分の衣料を作るのに20人で十分になる。

つまり、残りの960人は遊んでいても食べ物と衣料が手に入るようになる。


③この遊んでいる960人が家を建て始める。最初は1000分の家の建築に960人の力が必要だったのが、全員分の家を建ててしまえば、あとはリフォーム・改修をすれば良くなるので、30人で1000人分の家を維持できるようになる。

つまり、残りの930人は遊んでいても食べ物と衣料・住宅が手に入るようになる。


④この960人の中から、絵を描く人が生まれ、本を書く人が生まれ、作曲する人が生まれる。自動車を作る人も出てくるだろうし、船を作る人も、飛行機を作る人も出てくる。

そして、カメラが登場することで1000人分の自画像(写真)が1人で用意できるようになる。
そして、印刷機が登場することで、1000人が読む本を1人で用意できるようになる。
そして、蓄音器が登場することで、1人が演奏し1人が録音するだけで、1000人が聞く音楽を用意できるようになる。


最初は300人で作っていた自動車も、機械化が進めば30人で作れるようになるだろう。
最初は200人で作っていた船舶も、設備が発達するに従って20人で作れるようになる。
そして、飛行機だって効率化が進めば、ほんのわずかな人数で製造が出来るようになる。


⑤そこで働く必要のなくなった人達が、ITの仕事を始めたり、金融の仕事を始めたり、薬を開発したり・・・想像もできないほど多くのモノやサービスを開発する。


これが「産業構造の変化」ってことだ。産業構造が変化するのにしたがって、労働者は立ち位置を変えないといけない。

最初は「①農業」をしていた人が、次は「②衣料の製造」に、そして「③建築業」に、それから、それから、と職業を変えていかないといけない。「労働流動性」ってことだ。


失業者対策も労働流動性を考慮しないといけない。効率化が進んで人手が余っている産業から、新しく生れかかっている産業へ労働力を移していかないといけない。

20人で1000人分の食料を生産できるほど効率的な「農業」で、補助金を出してまで21人を働かせる意味はない。それは、衣料業でも建設業でも同じだ。

労働市場から押し出されている失業者を、労働者で溢れている業界に押し戻す必要はない。新しく生れ、人手が足りない産業へ送り込むべきなのである。
政府の失業者支援はそのために存在するべきである。新しい産業へ移っていけるように失業者に教育の機会を与えることが重要なのである。「労働流動性が高い」場合、それだけ新しい産業が次から次へと生まれていることを示す。日本ももっと労働流動性を高めていかないといけない。




日本銀行が積極的な円高対策を採用しない大きな理由もここにある。円高対策・円安政策は「必要のなくなった製造業」を支援して、「労働者を不必要に雇用している企業」を延命させる政策である。円高対策を取らないことで、過去の産業を国内から追い出し、新しい産業へと労働力が流動的に動いていくことを、日本銀行は期待しているのだと思う。

8月30日の会合でも、日本銀行が採用したのはほとんど効果のない小手先の新型オペである。円高の進んでいる為替市場に影響を与えるつもりは毛頭ないようである。