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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

新国立劇場の「ボリス・ゴドゥノフ」

2022-11-21 15:44:38 | オペラ
11月20日(日)の昼に、新国立劇場でムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」を見る。新国立劇場開場25周年記念の大作で、出演者も多い。新国立のレパートリーにロシア・オペラが少ないということで、芸術監督の大野和士はこのところロシア物にも力を入れているようだ。ピットに入ったのは珍しく東京都交響楽団で、大野自身が指揮をした。何しろ主役級のバス歌手が3人そろわないと上演できない作品だということに加えて、今の時期にロシアから歌手を呼びにくいので、製作ではいろいろと苦労があったのではないかと思う。午後2時から始まり、25分間の休憩が2回あり、終演は5時45分頃だった。長いオペラで見るほうも体力がいる。それでも9割以上も入っていた。

海外から呼んだのは、バス2人とテノール1人。あとは日本人キャストだが、全体的に歌唱のレベルは高く。歌や音楽は良い出来だった。中でも素晴らしかったのは僧侶ピーメン役を歌ったゴデルジ・ジャネリーゼで、歌声に酔いしれる感じ。ただし、イタリア作品のように美しい旋律のアリアがあるわけではなく、フランス・オペラ風に歌が延々と続く形式なので、聞く方もちょっと退屈する時がある。

物語は、16世紀末から17世紀初頭にかけてのロシアの皇帝争いで、イワン雷帝の息子の弱小皇帝を殺して皇帝の座に就いたかつての臣下ボリス・ゴドゥノフが、自分の過去の殺人などにさいなまれて、結局、イワン雷帝の偽の息子に成りすました僧侶に皇帝の座を奪われる話。寺山修司風に言うと、「皇帝がいないことが不幸ではなく、皇帝を必要とすることが不幸なのだ」(元はブレヒトだが)となるが、今でも皇帝を必要としているように感じられるロシアを的確に描いており、現代の上演の意義もそこにあるように感じられた。オペラの運びは、物語を知っていることが前提で、予習しておかないと、人間関係がよくわからない。休憩時間に、ロビーでは必死にあらすじを読み直す人が結構いた。

演出はマウリシュ・トレリンスキで、現代の欧州的な演出。時代風俗は現代となっており、動きの少ない舞台を補完するために、ビデオカメラで撮影した白黒の映像を舞台後ろに拡大投射していた。物語は歌で運ばれる形式で、歌舞伎の時代物のように、動きが乏しく退屈するといけないので、演出上はサービス過剰気味に内容を視覚化して見せる。ただし、ゴドゥノフがうなされるような内容の視覚化なので、かなりグロテスクと思われる演出で、あそこまで見せられるとうんざりだ。

歌はなかなか良かったのだが、観客もうんざりしてみていたようで、拍手も薄く感じられた。

雨が降っていたので、家に帰って、作ってあった餃子などで軽い食事。飲み物はヴァン・ムスー。悪夢を見そうな気がしたので、アマレットやコワントローなどの強いリキュールをがぶ飲みして、そのまま寝込んだ。

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