フェアリーフライ

毎日テレビを見て、ときどき感想を書いています。

『トニー滝谷』

2005年11月04日 | 映画
レンタルDVDにて。

解説: 村上春樹の短編「トニー滝谷」を市川準監督が映画化した作品。第57回ロカルノ国際映画祭で、審査員特別賞、国際批評家連盟賞、ヤング審査員賞とトリプル受賞をはたした。

ストーリー: 美大で芸術を学んだトニーは、デザイン会社へ就職、その後独立してイラストレーターになり、自宅のアトリエで仕事をこなすようになる。そして一人の女性に恋をする…。


村上春樹の小説の映画化というのは珍しい。しかも主役がイッセー尾形と宮沢りえ。演技に関しては申し分ありません。全体を通して静かな映画です。水平移動のカメラ、横スクロール、ローアングル。音楽、坂本龍一。格調高く丁寧に描かれています。私はこの短編を読んだとき、もっとポップでオフビートでトボけた世界を想像しました。でも、こんなふうに綺麗にゆったり流れる画面に見入るのも、心地よいです。

ヒロイン宮沢りえが優美です。二役で、どちらもチャーミング。洗練されて有能だけど不安を抱えた女性と、思わぬ事態に戸惑う普通の女性。イッセー尾形も二役、父親の波瀾万丈なところが彼らしい。こつこつとイラストを描き続ける主人公トニーの存在感も、凄いです。

孤独と喪失。いろいろ解釈できて、深く広がりがあります。人はどんなに美しい思い出を持とうと、いまある現実がいちばん重いのではないか。時間は人を変えてゆくのだ。ふとした瞬間に、そのことに気づかされる。唐突な幕切れが余韻深いです。