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夢の羅列<純子の赤いセロファン・2> 20161127

2016-12-25 17:42:00 | Dreams
夢の羅列<純子の赤いセロファン・2> 20161127

つづき。

二人で車から降りて砂利道を少し歩くと
行く手は岩山に阻まれ、私たちがはるばる来た一本道はこれで終りかと思われたが、
近づくにつれ岩山の洞窟へとつながっているのが見えた。

洞窟とはいっても「穴」というのではなく、巨大な岩の裂け目という感じで、
どうだろう亀裂は縦に10メートルほどあるだろうか。
間口はほんの一間ほどなのだが。

あれ、人がいる。

裂け目の前でゴムの前掛けをした二人の男が立ち働いているのが見えた。

なぜかその岩の洞窟を利用して魚屋が営業をしているのだった。
転がった岩と岩に板を渡して上手に台として利用したりしているのだった。

私たち二人はここまで来たのだからと、ためらいもなく店の中に入っていった。
魚に用事があるのではない。その奥に、というより道の続きに用事があるのだ。

大将たちと何も話すこともなく、裂け目の店を中に進むとだんだん広くなり、
そこは岩山の内部を彫り抜いて造ったというのか、巧みなしかも洋風な佇まいで、
我々の大事な一本道はまだ途切れることなく石の廊下へと姿を変えて
奥へ奥へと導くのだった。

「二階もあるのよ」

突然柔らかな声がした。
驚いて声の方を見ると影の薄い感じの女性が石造りの暗がりに立っていて、
少し疲れたような微笑みを私に返した。

私はここに来たことがある。

二階という言葉をきっかけに、ふとそんな既視感が私を包み込んだ。
たしか二階にカフェだかバーだかがあったことを思い出したのだ。

石造りの広くはない、そして天井の低い部屋に造作は木製。

木枠の窓には模様を切り抜いた赤いセロファンが何枚も窓を埋めるように、
しかしわりと雑に貼ってあり、その赤い光に店内が照らされて、
なんだか夜店に売られた怪しい幻灯のような雰囲気の店だった。

「純子さんはもういないのよ」

純子? ああそうだった。
いつも首まで隠れるセーターを着ていたあの女性か。
彼女が長くこの店をやっていたのだ。

窓を開けると真っ青な海で、風が抜けて、セロファンが剥がれるたびに
細い腕でしかしやっぱり雑にまた貼り直していた。

「お店だけは上にまだあるのよ」

そういって疲れた微笑みの女性は階段を指した。

私たちの一本道は細い階段の上に続くのだろうか。

いや、いまさら階段を上がるのはよそう。

主のいない店に入るのは気が引ける。いや気が進まない。

なぜなら、たとえば店に上がったとしよう。

きっと店内はついさっきまで誰かがいたかのようにまだ暖かく
掃除も行き届いてちょうど湯もちんちんと沸いているに違いない。

せっかくここまで来たのだからただ店を見て帰ることもないだろう。

私は誰もいないカウンターに入ってコーヒーを淹れる。
もちろん代金は多めに置いて帰るつもりだ。

コーヒーを飲みながら窓に赤いセロファンの獅子座や水瓶座が遊ぶのを眺める。

セロファンが少し剥がれたその向こうに光も眩い海と空。

絶壁にくり抜かれたこの窓を開ければきっとカモメがそれを目ざとく見つけて
エサを求めてやってくるに違いない。

私は背のない木の椅子に腰掛け少し落ち着く。

そんな時に軋む音がしてドアが開き客が入ってくる。

客はコーヒーを注文する。コーヒーしかないのだ。

私は注文通りに丁寧に淹れる。

客は先に香りを十分に楽しんでからそれを飲む。

またドアが開き、客が入ってくる。お、今度は二人連れだ。

今日は忙しくなりそうだ。

おわり。
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