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就業規則の労働条件がそのまま労働契約の内容になる要件とは<労働契約法7条>

2016-12-23 18:41:33 | 社会保険労務士
就業規則の周知と合理的な労働条件があればよいが「周知」は実質の周知で事足れる=(例)作業場とは別棟の食堂での備え付け等

 就業規則の重要性については、労働契約法の第7条の規定からも明らかです。
 <労契法第7条> 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

 就業規則の労働条件がそのまま労働契約の内容となる要件として、採用する際に、すなわち使用者が労働者と労働契約を締結する場合に(1)就業規則が合理的な労働条件を定めていること (2)就業規則を労働者に周知させていたこと があり、この2点があれば、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容になるとしています。

 これは、判例法理を労働契約法7条で確認したものといわれています。法案の国会審議で「判例法理を足しも引きもせず立法化するという基本的考え方」であることが確認されていますが、実際にはこれら判例法理の考え方については、学説では諸処あって、少なくともこの労働契約法7条の規定の成立により、就業規則の労働条件が労働契約の内容となる要件としては、前記(1)(2)の2つの要件に落ち着いたといえます。

 この(2)就業規則の労働者の周知についてですが、労働基準法では「就業規則の周知方法」の規定があって、こちらでは、厳格にこれだけということで規定しております。すなわち、就業規則の周知の方法は以下の3つの方法のいづれかのみです。
 1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
 2. 書面を労働者に交付すること。
 3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。(労基法106条1項、労基則52条の2)

 しかしながら、労契法の周知は、労働基準法の取締り法規、いいかえれば労働監督行政下の罰則(罰金30万円以下、労基法120条)を伴った規定ということから厳格に法令に列挙された方法1.2.3.とは違って実質的周知がされればよいとされ、事業場の労働者に対して就業規則の内容を知り得る状態に置いていたならば、「周知した」といえると考えられています。これは、就業規則に労働契約内容を規律させるという民事的効力を生じさせるためには、少なくとも法規範として当該事業場に周知させる必要があるとの趣旨からだろうと考えられます。その意味での実質的な周知であればよいということでしょう。
 
 ここで、前に書きましたが、実質的周知でよいといっても、労基法の3つの方法以外に考えられるかということです。2.3.については、これ以外は考えられないし、問題は1.であるがこの掲示・備え付けにしても、ほかに考えられるかということで、前に書いたときは、判例から仕方なく事例を持ってきたところでした。事業場で管理職員の机の中や書棚に設置されいつでも閲覧できる場合(日音退職金事件)や会社設立時暫定的就業規則が全従業員に示され、その後の新規職員には就業規則が配付されていたという場合(レキオス航空事件)がありました。
 
 しかし、石嵜信憲著の「就業規則の法律実務」を見ていて、はっとさせられました。実にふさわしい分かりやすい事例が載っていたからです。
 「例えば、作業場とは別棟の食堂や更衣室に備え付け、労働者がみようと思えばいつでも見ることができる状態においていた場合等」(石嵜信憲著・就業規則の法律実務・第11版、P144)というのがありました。
 確かに、労基法の1の周知の場所は各作業場の見やすい場所となっています。別棟でも食堂や更衣室であればだれでも使う場所であるし、見ようと思えばいつでも見れますので、これは実質の周知ということになるでしょう。

 このような周知方法により<**(注)下記参照**>、労働者が労働契約を締結する際に、すなわち採用時または採用直後(=採用と同時に)就業規則の内容を知り得る状態に置いていればよいことになります。そして、この周知がなされたときは、その労働者が実際に就業規則の内容を知ったかどうかは問われないと考えられています。
 
 しかしながら、これは就業規則が労働者を拘束する場合の要件であって、労働基準法の周知(1.2.3.のいづれか)を満たさなければ、例えば別棟の食堂での備え付けでは、労働基準監督署から指導されることは間違いないでしょう。まさか罰金30万円が科されるということはないでしょうが、少なくとも作業場にも備え付けてくれとの指導があることになるでしょう。

前に書いた記事へ<労働契約法第7条の「周知」とは>

参考 就業規則の法律実務 石嵜信憲著 中央経済社

 <**(注)**> 周知の方法については、実質的「周知」と言えるものであればいのですが、周知される情報が適切・的確なものである必要はあります。裁判では(1)退職金減額があることを説明しても具体的に説明しない場合(2)就業規則を休憩室の壁に掛けていても、退職手当の具体的決定・計算方法に関する規定を添付していない場合には、実質的周知がなされたとはいえないとされました。(中部カラー事件=東京高裁平19.10.30)その意味では、情報が適切・的確であるという厳格な周知が求められることになります。(同就業規則の法律実務第4版 p145)






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