Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

やっぱり、CTGなんじゃないかな、と思う。

2023年03月09日 | ひとりごと
先週に京都で行われた集中治療医学会総会のオンデマンド配信が昨日から始まった。
僕は、初日の午前中に自分の発表があった以外は妻と京都観光三昧で、他の人の話はまったく聞かなかったので、昨日からオンデマンドを見まくっている。二倍速で、かつ最初の挨拶とか、スライド見たら内容が想像できるところとかはどんどん飛ばすので、1時間の講演でも場合によっては10分ぐらいで見ちゃっている。発表者の方々には申し訳ないのだけど、まあ今風の視聴方法なんじゃないだろうか。
ちなみに、全ての発表がオンデマンドで見られるわけではなく、例えばワークショップは配信されていない(録画自体が行われなかった)。なので僕の発表は見られません。ちょっと悲しい。いや、相当悲しい。

感想を一つ書きたくなった。
臨床研究のやり方的な話は毎年あるけど、今年もいくつかあった。それらを見て思ったことは、「車輪の再発明してない?」だった。僕はRCTをしたことがないので、多施設RCTを実施した方々に偉そうなことを言える立場ではないけれど、それが正直な感想。
ちなみに、RCTはしたことはないけれど、多施設研究はメインの研究者として複数回やったことがある。これとかこれとかこれとか。そしてこれらの経験をもとに、多施設観察研究の指導もした(これ)。なので、少しくらいは意見を言ってもいいかなと。

多施設研究は、研究開始前に入念な準備が必要だし、開始後もずっと大変。モチベーションの維持だったり、コミュニケーションだったり。ましてやRCTとなると更に難易度は増す。過去50年の日本の集中治療の歴史の中でRCTをやろうとした人はたくさんいたけど、多くは研究開始前に挫折し、開始してもNが集まらず途中で中止になり、最終的に数百例を集めてメージャ雑誌に発表された研究となると、数えるほどしかない。
このハードルを超えてやり遂げた人たちは凄い。ただただ尊敬。

でも、海外のRCTはみんなこんな大変な思いをして、選ばれた研究のみが発表されているのか?というと、そんなことはない。何故ならclinical trial group (CTG)があるから。研究に興味のある人がすでに集まっていて、研究経験のある人が何人もいて、施設も研究参加に慣れているから、自分でゼロから研究を行うのに比べてハードルが断然低い。

日本にもCTGという名前のついた活動は複数ある。
JSEPTIC-CTGは、僕も創設に加わった。実際、この研究はJSEPTIC-CTGの研究第一弾で、業績を作り、PubMedで検索可能にすることを一番の目的としていた。でも、僕を含め創設者には多施設RCTを実施する能力もエネルギーもなく、現在のJSEPTIC-CTGは研究初心者の指導が主な活動になっているように思われる。
集中治療医学会のCTGは、自分勝手な解釈だが、僕が書いたこの文章が創設のきっかけの一つだったのではないかと思う。でも、現在の活動内容は研究のendorsementが主で、ANZICSやカナダのような活動はされていないようだ。

オーストラリアから帰国したのが2003年の3月なので、ちょうど20年が経った。「このままオーストラリアにいたら?」と言われたりしたけど、ここで学んだことを日本に還元する義務があるなんて偉そうなことを考えて、帰国を選択した。この20年を振り返ってみると、集中治療医になる人の数は増えたし、集中治療という概念も普及したし、臨床研究をしたいと言う人の数も増えた。もちろん、どれも僕の成果じゃないけれど、とても嬉しい。
ただ、臨床研究をしたいと言う人の数は以前より二桁くらい増えたんじゃないかと思うのだけど、その多くは統計だったりAIだったりreal world data解析だったり、そういう方面に行ってしまっていて、多施設の前向き研究を実際にやろうとする人の数は、肌感覚的にはせいぜい数倍程度じゃないだろうか。

多施設RCTを実施するCTG。
やっぱり日本にもそれが必要なんじゃないかな、と思う。
挫折した人間がこんなことを言うのは申し訳ないのだけど、誰か、作ってくれませんか?
僕には主導するエネルギーはないけれど、お手伝いくらいならできるかもしれないので、よかったらいつでも声かけてください。
コメント
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