Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

NEJMが面白すぎ

2013年06月03日 | その他
だったわ。先週は。
さらっと紹介するだけでは気が済まないくらい。
でも、”読んで当たり前”の文献だけ紹介してもしかたないし。
ということで、今週は二部構成にします。
第一弾は、NEJM。

Huang SS, Septimus E, Kleinman K, et al.; the CDC Prevention Epicenters Program; the AHRQ DECIDE Network and Healthcare-Associated Infections Program.
Targeted versus Universal Decolonization to Prevent ICU Infection.
N Engl J Med. 2013 May 29. [Epub ahead of print] PMID: 23718152.


アメリカの43の病院のICUを、グループ1(入室時に鼻腔でMRSAのスクリーニングをして、必要な患者さんに対して接触感染対策を行う)、グループ2(それに加えて、MRSAが検出された患者さんに鼻腔ムピロシンとクロルヘキシジンによる清拭を5日間行う)、グループ3(スクリーニングは行わず、入室患者全例に対して鼻腔ムピロシンとクロルヘキシジンによる清拭を5日間行う)に分けた(患者数74,256例)。その結果、臨床的にMRSAが検出された頻度および血流感染の発生頻度がグループ1>グループ2>グループ3の順に低くなった。
この研究でちょっと気に入らないのは、MRSAによる血流感染の減少は有意差が無いこと。介入として二つのことをしている(ムピロシンとクロルヘキシジン)けど、クロルヘキシジンを全員にやったことが良かったのではないか?それって、すでに示されていることでしょう。
この研究のエディトリアルのタイトルは、
Edmond MB, Wenzel RP.
Screening Inpatients for MRSA - Case Closed.
N Engl J Med. 2013 May 29. [Epub ahead of print] PMID: 23718155.

つまり、もうMRSAのスクリーニングなんかやめようよ、ということ。
それって、ちょっと言い過ぎじゃないかなー。
慈恵では、何年も前から鼻腔培養を24時間以上滞在する患者さん全例に対してやっているけど、その目的はMRSAを早期に発見することよりも、後日培養で検出されたときに、それが入室前からの持ち込みだったのか、それともICU内で感染したのかを判断することを重要視しているので、この研究結果を元にスクリーニングを止めようとは思わないな。
それよりも、改めて、クロルヘキシジンの清拭が有意義であるということを示した研究だと考えます。

Anderson CS, Heeley E, Huang Y, et al.; the INTERACT2 Investigators.
Rapid Blood-Pressure Lowering in Patients with Acute Intracerebral Hemorrhage.
N Engl J Med. 2013 May 29. [Epub ahead of print] PMID: 23713578.


発症後6時間以内の脳出血症例2839例を、SBP<140mmHgでコントロール(入院後1時間以内にターゲットに達し、7日間継続)するか、SBP<180mmHgでコントロールするか(AHA/ASAのガイドライン)でRCT。症例の2/3は中国。修正Rankinスコア
が3点以上の頻度はSBP140群が52.0%、SBP180群が55.6%でギリギリ有意差なし(p=0.06)。Rankinスコア全体を比較するとp=0.04。死亡率は11.9%と12.0%で同じ。
いやー、ついに出ましたよ、INTERACT 2。個人的に待ちに待っていた研究の一つ。そしてその結果はちょっとだけポジティブ。なるほどー。
これまで、脳出血に対する治療として、手術も止血剤もみんな否定されてきた。なので、これだけのレベルの症例数で、有効性が示されたのは初めてでしょう。
血圧を下げると出血が大きくならずに済むかもしれない。でも脳血流が減るので虚血部分がさらに悪くなるかもしれない。で、その足し算として、血圧を下げることはちょっとだけ良かった。
一つ驚きなのは、出血の増大が1.4mlしか減少しなかったこと。その程度の差で臨床的な意義は出ないかも。SBP180の方が脳血流が増えて脳圧が上がったかもとか、推測はされているけど。
同じような研究がアメリカでも行われていて(ATACH II)、結果は2016年に出るらしい。そちらも楽しみ。

Birnie DH, Healey JS, Wells GA, et al.; BRUISE CONTROL Investigators.
Pacemaker or defibrillator surgery without interruption of anticoagulation.
N Engl J Med. 2013 May 30;368(22):2084-93. PMID: 23659733.


ワーファリン内服中の患者さんにペースメーカー(もしくはICD)を植え込む手術のときに、ワーファリンをそのまま続けるか、5日前から中止してヘパリンに変更(手術前に中止、24時間後に再開)するかでRCT。ワーファリン群では343例中12例(3.5%)、ヘパリン群では338例中54例(16.0%)に臨床的に意義のある出血がポケットに発生。塞栓の合併症はほとんど起こらなかった。
へー。こういうのを"抗凝固剤ストレステスト”って呼ぶんだって。抗凝固剤が継続されていれば、出血しそうな部分からは手術中に出血するので止血できるけど、抗凝固剤を後で再開すると術中の止血があまくなるから。
ポリペクとか手の手術とか泌尿器科的手技とか、ワーファリンを継続するのっていろいろ検討され始めているらしい。でもRCTはこれが初めてかも。

ああ、面白かった。
では、また明日。
コメント
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