患者:周某 68歳 男性
初診年月日:2002年12月18日
主訴:倦怠乏力半年
病歴:
2002年6月明らかな誘引なく倦怠乏力が出現、検査にて腎機能異常が発見され、多医の治療を受けたが、明らかな改善は得られず、氏の外来を受診した。脂肪肝20年余、嘗て龍胆瀉肝丸を2年余服用したことがある。
初診時所見:
倦怠乏力、納差、心煩口干、口が粘る、大便2回/日、舌質紅、中央に裂紋、辺に歯痕あり、苔白厚黏膩、脈大。尿検査:蛋白(+)、腎機能、Cre492.5μmol/L(5.57mg/dl)、BUN10.23mmol/L(61.38mg/dl)、ヘモグロビン6.1g/dl、超音波検査で双腎体積縮小。
中医弁証:湿濁化熱 胃熱陰虚 瘀血内結
西医診断:慢性間質性腎炎 慢性腎不全(高窒素血症期)
治法:清胃熱 養胃陰 化湿濁 活血化瘀
方薬:甘露飲加活血化瘀薬
熟地黄20g 生地黄15g 黄芩15g 枳殻15g 茵陳蒿15g 枇杷葉15g 石斛20g 麦門冬15g 川黄連10g 草果仁15g 砂仁15g 藿香15g 白朮15g 山茱萸20g 大黄10g 桃仁15g 丹参20g 赤芍15g 当帰20g 甘草15g
水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
二診 2003年1月22日。
近日胃脘張満、大便日に2~3回、便は薄く、舌質淡紅、苔白厚裂、脈大。腎機能:Cre496.9μmol/L(5.61mg/dl)、BUN14.12mmol/L(84.7mg/dl)、二酸化炭素結合力18.0mmol/L。(正常域:20~30mmol/L或いは50~70 Vol%) ヘモグロビン7.49g/dl、尿検査:蛋白±白血球5~10/毎視野、赤血球10~15/毎視野。弁証治療同前。
方薬:
熟地黄20g 生地黄15g 黄芩15g 枳殻15g 茵陳蒿15g 半夏15g 砂仁15g 草果仁15g 白朮20g 神曲15g 葛根15g 赤芍20g 桃仁15g 当帰20g 丹参20g 甘草15g
水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
三診 2003年3月19日
服薬30余剤、食後に胃張はあるが、口中異味感はない。舌質淡でやや水っぽく、苔白厚、脈大。腎機能:Cre447.7μmol/L(5.06mg/dl)、BUN16.82mmol/L(100.92mg/dl)、ヘモグロビン7.4g/dl、尿検査:蛋白(+)弁証治療同前、方薬前方加味
方薬:
生地黄15g 茵陳蒿15g 黄芩15g 黄連10g 半夏10g 陳皮15g 紫蘇15g 草果仁15g 太子参15g 白朮15g 茯苓15g 砂仁15g 白豆蔲15g 神曲15g 麦芽30g 山楂15g 大黄10g 桃仁15g 葛根20g 赤芍15g 丹参15g 山茱萸20g 何首烏20g 女貞子20g 瞿麦15g 甘草15g
水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
その後フォローアップしたところ、症状は著明に改善、Creは400μmol/L(4.52mg/dl)前後、病情は穏定。
ドクター康仁の解釈
前案では甘露飲中の枇杷葉は配伍されていませんでしたが、本案では初診時に配合されています。枇杷葉は化痰止咳、和胃降逆に作用します。清胃熱の効果が甘露飲では見逃せないところです。
本案では消化剤の神曲15g 麦芽30g 山楂15gの組み合わせが施されています。
最終的な薬用中の何首烏には補益精血、抗マラリア作用、解毒、潤腸通便の作用がありますが、大黄 桃仁と共に通便泄濁に働くことも要点になるでしょう。女貞子は養陰薬ですが、山茱萸、何首烏と共に補(肝)腎に作用すると考えられます。大黄10g 桃仁15g 葛根20g 赤芍15g 丹参15g 当帰20gの大黄の通腑泄濁 活血祛瘀 葛根 赤芍 丹参の活血祛瘀、全当帰の養血活血は前案とほぼ同じです。最初の頃の熟地黄 当帰の組み合わせは貧血のための養血目的でしょう。貧血がやや改善してからは滋膩の熟地黄は除かれていますね。前案と比較してみますとよく分かります。砂仁(化湿行気和中)15g 草果仁(温中燥湿)15g 白豆蔲(行気温中化湿消痞)15gなどの組み合わせも前案と同様です。
前案の前記で日本の医療制度について間違いが有りました。最短でも医師になるのに24歳です。中国では張琪氏に見られる様に20歳から医療活動を開始したとあります。弟子派と学院派の違いでしょうか。本案にも誇張も無く、淡々と中医治療の結果を述べています。前案でも藿香(発表解暑、化湿止嘔、行気止痛)が三診まで、本案では初診時に配伍されています。化湿と止嘔が主な目的だったのでしょう。
以上は中薬治療として素晴らしいものです。誇張がありません。データの捏造もありません。
2013年11月16日(土) 記
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