前稿に引き続き、慢性腎不全に併発する貧血の漢方治療の張琪氏医案を紹介します。
患者:王某 47歳 女性
初診年月日:1993年8月13日
主訴:反復性浮腫5年余、乏力6ヶ月余。
病歴:
慢性腎炎の病歴が5年、治療にて病情穏定であったが、ここ半年、全身の乏力を自覚し、嫌食、時に悪心、頭昏頭痛、心煩あり、氏を受診した。
初診時所見:
眼瞼浮腫、腰酸唇淡、大便溏2~4/日、倦怠乏力、舌淡滑潤、苔白、脈沈。尿蛋白(2+)、Cre445μmol/L(5.03mg/dL)、BUN21mmol/L(126mg/dL)、二酸化炭素結合力21mmol/L。ヘモグロビン8.0g/dl。
中医弁証:脾腎虚衰、陰陽気血倶虚
西医診断:慢性糸球体腎炎、慢性腎不全
治法:健脾養血、補腎化濁
方薬:
紅参20g 白朮15g 茯苓15g 当帰15g 白芍20g 半夏15g 陳皮15g 砂仁(化湿行気和中)15g 草果仁(温中燥湿散寒)15g 公丁香(温中降逆、温腎助陽に作用、胃寒による嘔吐、呃逆に対する要薬とされる)5g
水煎服用、1日1剤。
(付記:甘草が配伍されていませんが、起稿の段階で見落としたのかも知れません。)
二診
上方服用10剤、諸症倶減、納可、精神転佳、体力やや強化、なお腰酸乏力あり、益気健脾補腎の剤を継続する。
方薬
紅参20g 白朮15g 茯苓15g 当帰15g 白芍20g 半夏15g 陳皮15g 砂仁15g 草果仁15g 公丁香5g 加味以下 熟地黄(養血)20g 枸杞子20g(養陰) 莵絲子15g(補陽) 女貞子15g(補陰) 淫羊藿(補腎壮陽、祛風除湿)15g
水煎服用、1日1剤。
三診
上方を連続服用45剤で諸症倶除、病情穏定、再検値Cre252μmol/L(2.85mg/dL)、BUN9.0mmol/L(54mg/dL)、ヘモグロビン11.5g/dl、精神体力飲食共に佳なり、間もなく仕事に復帰した。
ドクター康仁の印象
初診時のデータ:Cre445μmol/L(5.03mg/dL)、BUN21mmol/L(126mg/dL)、ヘモグロビン8.0g/dl
↓
55剤後のデータ:Cre252μmol/L(2.85mg/dL)、BUN9.0mmol/L(54mg/dL)、ヘモグロビン11.5g/dl
改善が見事です。何よりも、自覚症状が消失したのには感嘆させられますね。
慢性腎不全の病の根源は腎にあることは勿論ですが、陰陽論で言えば、陰陽倶虚が多いと氏は認識しているのでしょう。直ちに温補剛燥にも甘寒養陰にも偏らず、まず脾胃の健運を正常化するようにさせ、昇清降濁機能を回復させ、気血の後天の源の脾胃を先に治療し、六君子湯で湿濁を除き、養血当帰、斂陰白芍で血を養う。次に滋膩の熟地黄を加味し、枸杞子、莵絲子、女貞子、淫羊藿等で陰陽のバランスを図ることが大切であるという主旨の医案であると思います。
年末年始の休診に入りました。今年1年間御愛読いただきまして厚く御礼申し上げます。「漢方市民講座 うんちく漢方塾」は新年仕事始めまでお休みさせていただきます。皆様にとって良い新年が明けますように祈念しております。
2013年12月29日(月) 記
さようなら 2013年
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