患者:赫某 65歳 男性 退職党幹部
初診年月日:1997年4月10日
主訴:持続性蛋白尿5年、納差、悪心半年
病歴:
慢性糸球体腎炎病歴5年余、ここ半年、食欲減退が出現、時に悪心あり、現地病院で、Cre545μmol/L(6.16mg/dL)を指摘され、氏を受診。
初診時所見:
食欲減退、時に悪心あり、口中尿素臭、胃脘張満、大便秘結、舌苔厚膩、乾燥し色は黄少津、脈弦滑。Cre475μmol/L(5.37mg/dL)、BUN25.4mmol/L(152,4mg/dL)、二酸化炭素結合力20.5mmol/L。尿蛋白(3+)、ヘモグロビン10g/dl。
中医弁証:湿邪化熱犯胃
西医診断:慢性糸球体腎炎 慢性腎不全(失代償期)
治法:清熱化濁、解毒
方薬:
醋炙大黄10g 黄芩10g 黄連10g 草果仁15g 藿香15g 蒼朮10g 紫蘇10g 陳皮15g 半夏15g 生姜15g 茵陳蒿15g 甘草10g
水煎服用、1日1剤。
二診
上方十剤服用で、嘔悪、脘張は消失、大便1日1~2回、形を成し、溏にあらず。上薬方加減を継続。
方薬:
醋炙大黄10g 黄芩10g 黄連10g 草果仁15g 藿香15g 蒼朮10g 紫蘇10g 陳皮15g 半夏15g 生姜15g 茵陳蒿15g 甘草10g 加味 砂仁15g 熟地黄20g
水煎服用、1日1剤。
三診
連続服用3ヶ月、Cre,BUNは顕著に下降、1997年9月3日の再検値、Cre200μmol/L(2.26mg/dL)、BUN10mmol/L(60mg/dL)、ヘモグロビン11.0g/dL。食欲増加、精神状態も良好、全身有力、舌苔転薄、脈弦、病情穏定。
ドクター康仁の印象
通常の日本の慢性腎不全症例は血清Cre値X10<血清BUN値ですが、中国の場合には圧倒的に血清Cre値X10<<血清BUN値の症例が多いのです。本案の初診時Cre475μmol/L(5.37mg/dL)、BUN25.4mmol/L(152,4mg/dL)もその例です。BUN値がCre値の約30倍です。ほぼ理想的な食事療法をしていれば、BUN値は60mg/dL前後になるでしょうが、中国の場合はBUN高値が目立ちます。治療後にBUN値が半分以下の60mg/dLになったという事実は評価に値しますが、裏返して言えば、中国の医案のBUN高値は畏れるに足らずということでしょう。日本の医療現場では、それほどのBUN高値を放置しておくことが有りませんので、日本の症例で、BUNが152.4mg/dLになっていれば、Cre値も10mg/dLを越していることが多いといえます。
一方、
日本の臨床現場ではCreが5mg/dLを越せば、早晩Cre値は急上昇して、血液透析に導入されることが多いのです。本案のように、Creレベルが2.26mg/dLまで下降する(下降させる)ことは西洋薬の経口投与では、ほぼ不可能です。
中薬治療の腎不全医案を読む場合には
① 医療保険制度の違い 検診制度の中国での不備
② 国民性、生活習慣とくに食生活の違い
③ 中医学に対する中国人の信任度の高さ
以上の3点をいつも念頭に置かなくてはならないのです。
さて、
本案は中医学的には湿熱痰濁中阻の状態です。便秘、口臭、厚膩苔など湿<熱の状態には、茵陳蒿 黄連 黄芩 大黄の苦寒薬で瀉熱泄濁し心下痞満を除き脾胃の運化を有利にして、湿>熱の場合には草果仁 半夏 蒼朮 藿香などで化湿濁を図るわけです。草果仁は氏が愛用する脾胃の寒湿を除く辛温壮烈な性質を持つ生薬です。湿濁を化熱させる可能性も有りますが、大黄 黄連にて泄熱し、化熱を防止する訳です。生姜と半夏は皆さんご存知の小半夏湯で止嘔目的になるのです。温燥化湿薬と苦寒泄熱薬の合用が化濁飲ということになります。
賢明な読者は、生地黄、石斛、麦門冬、玉竹などの養陰(清熱)剤は配合しても良いのではないか?という疑問を持たれるかも知れません。私自身としては「それも可なり」と思います。
2014年1月3日(金)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます