79歳 兵庫県在住の男性症例です。10年前から、2型糖尿病で地元大学病院内科と、上半身の掻痒を伴う湿疹で皮膚科に併診を繰り返してきました。
皮膚科の処方箋の内容は8年前からほぼ変わらずで、ドレニゾンテープ等(副腎皮質ステロイド)7.5㎝x10㎝サイズを一か月5~6枚程度外用、抗アレルギー剤としてアレジオン20㎎/日、外用軟膏としてマイザー軟膏、プロトピック軟膏、ステロイド軟膏としてロコイド軟膏、頭皮の湿疹には同じくステロイド剤のアンテベートローションやデルモベートローションという具合に8年一日の如く、同じ処方が繰り返されてきました。処方内容はアトピー性皮膚炎に一致します。但し、症状の改善が無く、痒みによる苛立ちが酷く、「糖尿があるとアトピーも悪くなると言われた」とのこと。半ば諦めていたところ、知人に紹介されて来院されました。
初診時所見(写真下)皮膚の乾燥が目立つのが第一感です。
頭皮の引っ掻き傷による出血が凝固した痒疹、全額部から眉毛、眉間、上眼瞼の痒疹、後頚部から背上部にかけて苔癬化を伴う痒疹、肘周囲は屈側よりも上外側に痒疹が目立ちます。とにかく、「首から上の痒みは我慢しきれません」とガリガリと引っ掻くのが習慣になり、枕やシーツに血液が付着するのが日常となっていました。 そして、舌象です。(写真下)
いわゆる燥にして黄膩苔という所見です。漢方的には陰虚瘀熱、湿濁化熱の状態です。画像が一番、感覚に訴えます。脈象は漢文を通じてしか感覚に訴えないので省略します。
さて、治療原則は、清利湿熱、滋陰降火、退虚熱、祛風止痒、瀉湿濁、涼血化瘀(処方内容は省略します)ということになります。治療開始後4か月後の皮膚所見をご覧ください。(写真下)
頭皮の痒疹は消失し、何よりもご高齢であるにも関わらず、生髪(しょうはつ)してきたには私も驚きました。顔面の痒疹も消失しています。顔面の皮膚に潤いが出てきました。
前腕部の痒疹も消失しました。皮膚に潤いが出てきています。
後頸部、背上部の苔癬化局面はほぼ穏解し、色素脱出を残すのみに改善しました。 そして、舌象の変化です。(写真下)
やや燥(中央部の裂紋が目立ちます)と、反面、内湿は感じさせるものの、黄膩苔は改善されています。
糖尿病を漢方では消渇(しょうかつ)と言います。長患いの消渇は最終的に陰陽両虚(陰陽倶虚)に陥りますが、幸いにも本症例は、陰虚火旺、湿濁内蘊の状態で、陰損及陽にまで至らなかったのです。
漢方治療と、外用剤の工夫(保湿剤、止痒剤を多めに、ステロイドは少量配伍)と、「良かれ」と本人が思い込んでいる「サプルメント」の整理、禁食の指導などが著効をもたらした症例でした。
漢方医学は奥が深いですよ。「異病同治」「随症加減」ですね。
ドクター康仁
2014年8月2日(土)
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