またまた腎病の張琪氏医案の紹介です。なぜ拘るのかと言えば、CKD(慢性腎疾患)の患者が日本国内でも1330万人いると厚生労働省の報告があるのです。漢方治療も有効な治療手段であると信じているからです。張琪氏の医案には捏造データがありません。私がお勧めする理由は氏の医案には透明性があるからです。
患者:呉某 39歳 男性
初診年月日:1998年12月25日
主訴:持続性蛋白尿5年、双下肢浮腫半年
病歴:
5年前の検診で蛋白尿(3+)、浮腫は無く、患者は重要視しなかった。半年前、双下肢浮腫出現、尿蛋白(3+)、血圧170/105mmHg、Cre364μmol/L(4.11mg/dL)、現地の病院で対症治療を受け、浮腫は減軽、系統的治療を求め氏を受診。
初診時所見:
面色皓白、肢体軽度浮腫、脘腹張、不思飲食、大便1日4~5回、舌淡胖、腰痛膝軟、畏寒(寒がる)、夜尿頻多、脈沈弱。尿蛋白(3+)、顆粒円柱1~3個/低倍視野、潜血(+)、Cre445μmol/L(5.03mg/dL)、BUN27.9mmol/L(167.4mg/dL)。ヘモグロビン7g/dl。血圧170/95mmHg。
中医弁証:脾腎両虚、湿濁内停
西医診断:慢性糸球体腎炎、慢性腎不全
治法:益気健脾、補腎活血
方薬:
黄蓍30g 党参20g 山薬20g 山茱萸20g 白朮20g 当帰20g 何首烏20g 菟絲子20g 補骨脂(辛苦大温 補腎壮陽 温脾止瀉 固精縮尿)15g 女貞子20g 淫羊藿15g 炮姜(乾姜を炮じて炭化したもの、温裏効果は乾姜に劣るが、温経止血作用がある)20g 白豆蔲15g 肉桂7g 丹参15g 紅花15g 益母草30g
水煎服用、1日1剤。
二診
上薬14剤服用後肢体の浮腫消失、脘腹張、不思飲食減軽、大便2~3回/日、舌淡胖、腰痛膝軟、畏寒、夜尿頻多、脈沈弱。続上方加減。
方薬:
黄蓍30g 党参20g 山薬20g 山茱萸20g 白朮20g 当帰20g 何首烏20g 菟絲子20g 補骨脂15g 女貞子20g 淫羊藿15g 炮姜20g 白豆蔲15g 肉桂7g 丹参15g 紅花15g 去る益母草30g 加味草果仁(温中燥湿散寒)15g
水煎服用、1日1剤。
三診
上方加減治療4ヶ月、大便毎日1回形を成す、全身有力、食欲増進、脘腹張満ともに除かれる、腰はまだ僅かに痛むが治療前に比し大減、すでに畏寒現象無し、脈沈滑舌潤、尿蛋白(+)、Cre230μmol/L(2.6mg/dL)、BUN8.5mmol/L(51mg/dL)、精神体力は普通人の如し、既に復職。
ドクター康仁の印象
見事な治療結果でした。中医学での典型的な脾腎陽虚証です。治法は脾腎双補で、陰陽調整にて腎気を助け、腎機能を回復させ、後天の気血の源である脾を温め、腎血流量を改善する目的で、活血化瘀剤を配伍します。ポイントは陽虚が進んだ腎不全では苦寒の大黄を配伍していないところです。さらに腎不全が進み、症状が複雑になり、寒熱挟雑、虚実併見ともなれば、大黄を適時配伍し通腑泄濁を図る状況も出現してきます。方中の何首烏は胃にもたれにくいので熟地黄の代わりに使用されたと推測します。
2013年12月27日(金) 記