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不妊症の漢方治療

2008-04-06 05:52:08 | ブログ

生理前になるとなぜか気分が落ち込む女性へ

漢方外来を始めてから、生理前になると「落ち込む」と訴える女性が多いのではないか?と思い始めました。

確実な漢方診断はできていないのが正直なところですが、治療経験が増加すれば、より正確な診断に近づくことができるだろうと考えています。

   34歳 女性

痩せ型で、疲れやすく、顔色が悪く、一見して気虚が伺われる女性です。生理がだらだらと10日ぐらい続くということで、気虚による経期延長と診断しました。生理出血が過多になる粘膜下子宮筋腫などはありません。

ご自身で排卵があるのが自覚できるといいます。排卵から生理が始まるまでの期間、精神的に「落ち込む」とおっしゃいます。不妊症も合わせて治療中なのです。不妊症の治療の詳細は省略するとして、彼女の精神的な落ち込みを述べてみると、

生理前の1週間くらいは精神的に不安定になるそうで、

自己の喪失感に似た感情や、自信がなくなってしまい、些細な自分の言動が気になって、何かをしようという意欲が無くなる。感情失禁状態になり、欠伸(あくび)がよく出て、感情的に涙もろくなってしまう。生活の張りとか生きがいがなくなってしまう感じがして、やらなければいけない仕事に対する意欲が失われる。 というものです。

エストロゲンを陰と考えプロゲステロンを陽と考えれば、低温期は陰が増加し、その頂点に達すると排卵がおきて陽に転化し、高温期になると考えます。高温期は陽が増加し、頂点に達すると陰に転化して生理になります。つまり陰陽転化の時期に一致して精神的に不安定になるわけです。

抗不安薬や抗うつ薬は処方しない

いわゆる不安神経症という範疇のものではありませんので、抗不安薬を服用させる訳には行きません。周期性があり、定期性があるわけですから、いわゆる鬱(うつ)病ではないと思うのです。従って抗うつ剤を投与するのも気が進まない。どうしていいのかわからないのが最初のころの正直な気持ちでした。

漢方治療の経験

当初は、寧心安神(ねいしんあんじん)が重要と考えて、酸棗仁湯を与えていましたが、いまいち、効果が不十分でした。

次に、冷えに対して、当帰四逆加茱萸生姜湯を加味するようにしました。やや症状が改善するような気がするとおっしゃいます。

次に、重鎮安神と交通心腎を目標に、桂枝加竜骨牡蛎湯を加味すると、少しは良いようだとのこと。なんとも、頼りない漢方医で恐縮しました。

なにか、いい方法はないかと思案していたところ、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を思い出して、飲んでいただきました。

後漢時代の「金匱要略」の中の「婦人の臓躁、しばしば悲傷し哭せんと欲し、象は神霊のなすところのごとく、しばしば欠伸す。甘麦大棗湯これをつかさどる」の文言を思い出したからです。さらに古書には「心病めば、麦を食うべし」という記載もあります。

甘麦大棗湯は炙甘草、小麦、大棗のわずか3種類の生薬からなる方剤ですが、これに重鎮安神の意味で竜骨と牡蠣を加えたものが一番効いたようです。

気虚型月経延長に対しては当然、人参、黄耆、白朮などの補気薬を以って、補気摂血固冲(気を補うことで生理出血が長引かないようにする)を行いました。

結局使用した生薬は、

人参、黄耆、白朮、炙甘草、小麦、大棗、竜骨、牡蠣、桂枝などです。

これも後で気がついたことですが、人参、黄耆、白朮、炙甘草に升麻(しょうま)を加えたものが挙元煎(きょげんせん)であり、婦人病の教典である「景岳全書」にある気虚不能摂血の月経先期、過多月経の方剤です。

さらに、挙元煎に当帰、陳皮、柴胡を加えたものが有名な補中益気湯(脾胃論)です。

やはり、古書、古典は絶えず読み返すことが必要だと実感しました。

不妊症の漢方治療のお問い合わせは下記URLより

http://okamotokojindou.com/ 岡本康仁堂クリニック