三崎通りを下ると、番地はいつの間にか千駄木になった。
この辺りは道の両側に柳が揺れる。
古い商家と柳はよく似合う。
仙台では舟丁の石橋屋あたりでしかこういう風景は見られない。
ビルと柳の取り合わせ。
不忍通りの向こうには団子坂。
曲がりくねった急坂である。
この坂は江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」のモデルになった場所。
「D坂の殺人事件」
D坂で起きた密室殺人事件を“私”と探偵“明智小五郎”が追及していく短編推理小説。
江戸川乱歩が自作に明智小五郎を初登場させた記念碑的作品である。
大正13年、『新青年』新年増刊号に掲載された。
事件の舞台である「D坂」とは、この「団子坂」のことである。
この小説には古本屋と蕎麦屋が登場するが、乱歩は作家になる前に様々な職歴があった。
大正8年には、この「団子坂」で弟2人とともに「三人書房」という古本屋を営んでおり、その店で推理小説の案を練っていた。
劇中には蕎麦屋も軒並びで登場するが、乱歩自身も支那蕎麦屋を経営していたことがあった。
ちなみに、出久根達郎の「佃島ふたり書房」は、乱歩の 「三人書房」から取った題名である。
D坂のことを考えていたら、「乱歩」という喫茶店があった。