「バスはまだかな?」
ついバスの来る方向をにらんでしまう。
にらんだから早く来るわけでもないけれど。
この冬は寒かった。
厳冬と言ってもいい。
何度も鶴嘴を振るった。
氷は塊のままだとなかなか溶けないが、砕いておくとすぐに溶ける。
氷の下がアスファルトの場合、それを傷めないように鶴嘴を寸止めする。
それには少々コツがいるし、腰を傷めやすい。
寒い日はまだ続いているが、少しずつ日足は長くなり、夕方5時でも明るくなった。
日の光の中にも、どことはなしに春を感じるようになった。
気象予報士、故・倉嶋厚の「気象歳時記」に次のような記載がある。
・・・・・二月の光は誰の目から見てももう確実に強まっており、風は冷たくても晴れた日にはキラキラと光る。
厳寒のシベリアでも軒の氷柱から最初の水滴の一雫が輝きながら落ちる。
ロシア語でいう「光の春」である。
ヨーロッパでは二月十四日のバレンタインの日から小鳥が交尾を始めると言われてきた。
日本でも二月にはスズメもウグイスもキジバトも声変わりして、異性を呼んだり縄張りを宣言する独特の囀りを始める。
ホルモン腺を刺激して小鳥たちに恋の季節の到来を知らせるのは、風の暖かさではなく光の強まりなのである。
俳句歳時記の春の部には「鳥の妻恋」という季語が載っている。
「光の春」の元のロシア語は「ベスナー・スペータ」と言います。