さくらんぼの季節も終わったが、今年も高かった。
さくらんぼをお中元に贈ろうと思うと1kgで5千円から1万円もする。
10件も贈ったら5万円~10万円。
さくらんぼは「もらって食べるもの」であり、自分で「買って食べるもの」ではなくなった。
高級化したのは昭和50年代からと記憶する。
その頃からさくらんぼは全身真っ赤になって、甘くなった。
それは佐藤錦が主流になったのである。
最近ではさらに「紅秀峰」なる、より大粒で、より甘く、より高価な品種にシフトしつつある。
私は山形で育ったが、昭和40年代まではさくらんぼは酸っぱくて美味しいものではなかった。
色は黄色みを帯びていたので「桜桃」ではなく、八百屋は「黄桃」と書いていた。
品種としては「ひかり」とか「おばこ」とかいうものだった。
山形のスズラン街にあったK八百屋の店頭では、笊に山盛りの「黄桃」が僅か100円ほどで売られていた。
「黄桃」は安くても売れなかった。
農家は米作りの片手間にさくらんぼを作って、ただで知り合いに配っていた。
大量にもらっても持て余し、それをまた知り合いに配る。
初夏、山形では黄桃が家庭の食卓を飾ったが、あまり有り難がられることはなかった。
今「月山」という黄色くて甘い高級サクランボが作られているが、これは別物の超高級品種。
郷愁そそるあの酸っぱい「黄桃」は、もはや店頭には並ばない。
私はK八百屋のおばちゃんにかわいがられ、暑い日は冷房の入った地下室で涼ませてもらったり、果物をもらったりした。
K八百屋があった場所は現在、立ち呑み屋になっている。