- 先月、退官したK元教授の講演を聞く機会があった。
彼は、「ご案内のとおり、私はこれまで○○○、△△△などのポストを歴任して参りました」と自己紹介した。
私はその「歴任」という言葉に違和感を覚えた。
「歴任」には「いくつもの重要なポジションに就いた偉い人」というニュアンスがあり、自己紹介では使わないと思っていたからだ。
この言葉は敬語であり、あくまでも他人を敬って紹介する際に使うべきものである。自分の経歴を語るのに使うと変なのである。敬語だから「歴任した」ではなく、「歴任された」という使い方になる。
本来「歴任」は高い官職を(二つ以上)任されて来たときに使う言葉である。高い官職とは大臣や行政の長など、公務員の中でも相当のポストを指す。普通の会社の役職は該当しないはずだったが、昨今は民間会社でも部長以上の職だと使われているようだ。部長以上は許容範囲としても、「私は係長、課長代理、課長を歴任した」と言ったら、違和感どころか失笑を買うだろう。
自分の経歴を紹介するときには謙虚に、「○○○、△△△などを務めさせていただいた」と言えば聴衆も好感を持つ。
K元教授はこの先も自己紹介の度に「歴任」を使い、その度に陰で笑われるのだろう。誰も元教授に進言できる者はいないからだ。
偉くなったら、発言はより賢く、慎重であらねばならない。