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テクノ-アニミズム:世界に広がるマンガ・アニメ03

2013年01月13日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
日本のマンガ・アニメの発信力の理由を以下のような五つの点に注目して、これまでにアップした記事を集約、整理している。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する。

②小さくかわいいもの、子どもらしい純粋無垢さに高い価値を置く「かわいい」文化の魅力。

③子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している。

④宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想・表現と相対主義的な価値観。

⑤民族や言語、階級などによって分断されない巨大で知的な庶民を基盤とし、その価値観を反映する。

その上で今回は、①についての記事を集約・整理しているが、これは、日本文化のユニークさ8項目でいえば、言うまでもなく(1)「漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている」に深く関係する。

◆『菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力』(アン・アリスン、新潮社)

著者は、日本のポップカルチャーがポストモダン的な最先端の美意識を表現しているのはなぜかと問い、それを戦後日本の歴史的な要因と、日本文化の伝統的な側面から考えている(第2章および第3章)。今回はとくに後者に関しての考察である。

「民族的で宗教的な伝統によって育まれた日本のアニミズム的な感性は、米国にはない日本独特のポストモダンの時代背景のなかににじみ出ている」と著者はいう。たとえば日本人はケータイに、ブランド、ファッション、アクセサリーとして多大な関心を払い、ストラップにも凝ったりする。そうしたナウい消費者アイテムにも、親しみ深いいのちを感じてしまうのが日本人のアニミズムだというのだ。そうしたアニミズム的な傾向は、『鉄腕アトム』に代表される多くの作品に見られるような、生命のあるものとないものとがたえず交わり、絡み合う世界を描く、マンガ、アニメ、ゲームなどにも現れている。

このように機械と生命と人間の境界があいまいで、それらが新たに自由に組み立て直されていく、日本のファンタジー世界の美学を著者は「テクノ-アニミズム」と呼ぶ。日本では、伝統的な精神性、霊性と、デジタル/バーチャル・メディアという現代が混合され、そこに新たな魅力が生み出されているのだ。

西欧に共通するキリスト教的な世界観では、人間が世界の中心であり、人間、生物、無生物は明確に区別される。日本人の感覚は、現代の日常生活の場面でも、モノに生命を与え、そこに精神性を見出す。日本のポップカルチャーに表現されるファンタジー世界は、日本に深く根ざした特有の文化、美的感覚、超自然的なものに対する鋭敏さを表現しており、世界中の人々がその魅力に惹きつけられるようになった。ポケモンをはじめとするファンタジー製品の人気は、そこに日本人のやさしさや感性が表現されているからで、そうした日本の精神の特徴が、現代世界の子供たちたちに伝えられ、生きる力となっている。

ここでは、日本文化のアニミズム性にかかわる一面だけを取り上げたが、著者の考察は多岐にわたり、複雑である。ただ前回も述べたように、日本文化のアニミズムがどのような歴史的な経緯のなかで残り、どのような性質のものかという考察はなく、誤解を呼ぶような単純化された表現が見られるだけである。

アトムと縄文(1)

アン・アリスンの『菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力』の中の鉄腕アトム論をヒントにしながら、日本人の縄文的な心性と「鉄腕アトム」との関係を考えてみたい。

現代日本人の中に縄文的な心性が流れ込んでいるといっても、では、私たちの中の何が縄文的なのかいまひとつピンと来ない。しかし、私たち日本人の多くが、楽しんで読んだり見たりした作品の中にそれが表れているとすれば、これかと納得しやすいのではないか。

『菊とポケモン』の中で著者は、縄文時代とか縄文文化とかいう言葉はいっさい使っていない。しかし、鉄腕アトムなどを例にしながら、テクノ-アニミズムという言葉を使って現代日本のポップカルチャーのある一面を特徴づけている。アニミズムとはもちろん、巨石からアリに至るまであらゆるものに精霊が宿っていると感じる心のことだ。それがテクノロジーとどう関係するのか。

鉄腕アトムでは、たとえば警察車両が空飛ぶ犬の頭だったり、ロボットの形もイルカ、カニ、アリ、木まで何でもありだ。マンガ・アニメに代表される日本のファンタジー世界では、あらゆるものが境界を越えて入り混じっているが、その無制限な融合を可能にする鍵が、テクノロジーの力なのだ。メカと命あるものの結合によってテクノ-アニミズムが生まれる。

アトムそのものがテクノ-アニミズムのみごとな具体例だといってもよい。アトムはメカであると同時に、「心」をもった命とも感じられる。正義や理想のために喜んだり、悩んだり、悲しんだりするアトムの「心」に、私たちは感情移入してストーリーに胸を躍らせる。

手塚治虫によってアトムというロボットに「命」が吹き込まれた(アニメイトされた)が、アトム誕生の背後にある道は、かなたの縄文的アニミズムにまで続いている。手塚の作品には、メタモルフォーゼ(変身)に対する憧れのようなものが強く表現されている。『メトロポリス (手塚治虫漫画全集 (44))』など初期の作品からそういう傾向が強く出ている。この作品のミッチーという中性的人間型ロボットは、スイッチを押すことで男にも女にもなれる。男女差どころか、人間と機械の差も曖昧で、こうした変身の要素は、最初から手塚作品の根幹をなしている。こうした要素の根っこを探っていくと、縄文的アニミズムに至りつくはずだ。

そして、アトムやドラえもんなどファンタジー世界の「生き生きとした」ロボットたちが、ホンダ ASIMOのような人型ロボット開発への情熱を生み出した重要な要因になっている。つまり、縄文的アニミズムは、アトムなどマンガ・アニメの主人公たちを介して、最先端ロボットへと連なっているのだ。

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