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日本人はクリエイティブ、なぜ?(3)

2012年05月13日 | 全般
日本人がクリエイティブであるなら、それはなぜか。二番目の理由は、「日本文化のユニークさ」(4)に関係する。

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺な体験をもたず、また自文化が抹殺されることもたなかった。一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。

かかわりがあるのはこの前半である。日本が大陸から適度に離れた島国であることは、日本文化に二つの特徴を与えた。

ひとつ目、日本は大陸の文化を侵略などによって押し付けられたことがなく、自分たちの必要に応じて「いいとこどり」(堺屋太一)することができたことだ。日本人は中国の文明も、間接的にインドの文明も、下っては西欧の文明も、抵抗なくむしろ憧れをもって自由に選んで受け入れていった。そして、他文明の原理原則にこだわらないから、さまざまな文明の要素をくったくなく併存させていったのである。おそらくそれは自分たちの縄文的心性を犯さない限りにおいてであった。だからあれほど熱心に西欧文明から学び取りながら、一神教そのものはほとんど拒否したのである。

縄文的心性に合わないものはほとんど無意識に拒否するという傾向は保持した。だから一神教だけではなく、奴隷制も宦官も科挙も日本には入ってこなかった。しかし、一度取り入れたものは、その背景にある原理原則にこだわらず自由に組み合わせて、そこから独自のものを生み出すことができた。それぞれの文化の背景にある宗教やイデオロギーに縛られずに、さまざまな要素を融合させてしまう柔軟さは、現代のポップカルチャーにもいかんなく発揮されている。例を挙げればきりがないが、たとえば宮崎駿のアニメ作品のなかにどれだけ神道的な要素や古代中国的な要素や西欧的な要素が融合しているかを見ればよい。

さて、日本が島国であることからくる二つ目の特徴は、日本が異民族による侵略がほとんどない平和で安定した社会だったというこである。異民族に制圧されたり征服されたりした国は、征服された民族が奴隷となったり下層階級を形成したりして、強固な階級社会が形成される傾向がある。たとえばイギリスは、日本と同じ島国でありながら、大陸との海峡がそれほどの防御壁とならなかったためか、アングロ・サクソンの侵入からノルマン王朝の成立いたる征服の歴史がある。それがイギリスの現代にまで続く階級社会のもとになっている。

異民族に制圧されなかったことが、日本を相対的に平等な国にした。異民族との闘争のない平和で安定した社会は、長期的な人間関係が生活の基盤となる。相互信頼に基づく長期的な人間関係の場を大切に育てることが、日本人のもっとも基本的な価値感となり、そういう信頼を前提とした庶民文化が江戸時代に花開いたのだ。

江戸の庶民文化が花開いたのは、武士が、権力、富、栄誉などを独占せず、それらが各階級にうまく配分されたからだ。江戸時代の庶民中心の安定した社会は世界に類をみない。歌舞伎も浄瑠璃も浮世絵も落語も、みな庶民が生み育てた庶民のための文化である。近代以前に、庶民中心の豊かな文化をもった社会が育まれていたから、植民地にもならず、西洋から学んで急速に近代化することができたのである。(中谷巌『日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること』)

幕末から明治初期にかけてヨーロッパとくにフランスを中心としてジャポニズムと呼ばれる現象が巻き起こった。これもまた、江戸時代の豊かな庶民文化が背景にあり、庶民の生活から生み出された浮世絵や工芸品だったからこそ、当時のヨーロッパ市民階級の共感を呼ぶものがあったのである。

現代の日本も、江戸時代の庶民文化のあり方を引き継いでいる。近年、貧富の格差が拡大したとはいえ、世界の他地域に比べるとまだまだ階級差の少ない社会を形成している。とくに知的エリートと大衆との間の格差が少なく、教養の高い圧倒的多数の大衆が日本の社会を支え、また日本人の創造性の基盤となっている。

日本人はクリエイティブ、なぜ?(1)へのコメントで漫画家の方が、「この国のクリエイティブさはやはりすごいと思います。まずは圧倒的な層の厚さ。多くの人が、何かしら描いたり書いたりできる。アマチュアの質と量が、プロの頂点を押し上げてくれています。」と書き込まれていたが、その層の厚さが他の多くの分野にも当てはまるのだ。「初音ミク」が新たな潮流になりつつあるのも、プロではない無数の人々が作曲し、CGを作り、協力しあいながら作品を作り上げていくからだろう。大衆相互の切磋琢磨が、日本人の創造性のひとつの源泉となっている。

ここまでの議論をまとめよう。まず日本人の縄文的な古層と現代の最先端のテクノロジーという類を見ない組み合わせが、創造性のひとつの源泉となっている。しかし、それだけではなく、その古層の上に、中国文明やインド文明や西欧文明のさまざまな要素が自由に融合されていった。そして、それらを学びとり、消化し、そこから自由な発想で新しいものを生み出すことのできる層の厚い大衆がいた。これらの特徴は、現代にまで引き継がれ、複合的に働くことで現代日本人の創造性を形づくっている。

「日本文化のユニークさ」(5)(6)は、ここまで述べてきたことかなり重なるのだが、次回かんたんに触れてみたい。

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《関連図書》
★『日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること
★『格差社会論はウソである
★『ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
★『日本の曖昧力 (PHP新書)
★『菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力
★『世界が絶賛する「メイド・バイ・ジャパン」 (ソフトバンク新書)

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6 コメント

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Unknown (名無し)
2012-05-13 14:49:26
日本の文化の成り立ちについてはよくわかりましたが、世界に対してよりクリエイティブかどうかがよくわかりません。日本がクリエイティブか否かを具体的な国と比較していただけませんか?例えばフランス、中国の場合のクリエイティブについて論じた上で日本と比較していただけると分かりやすいです。
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Unknown (Unknown)
2012-05-13 21:33:52
そういえば海外との違いで面白いなと思ったのは海外では新しい発明や発見があると人の名前を付けるケースが多いのに日本では地名だったりして個人の功績をあまり重視しませんよね。
まぁ近年は小惑星イトカワとか人名を付ける
ケースも多くなりましたがどちらかと云うと
西洋に習ってそうしてる感じがします。
無銘の作品とかも結構ありますし後世に名を残すという概念が薄いのでしょうか?
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Unknown (cooljapan)
2012-05-13 23:31:15
名無しさんへ

>日本がクリエイティブか否かを具体的な国と比較していただけませんか?

すぐに具体的にできるかどうかわかりませんが、課題にはしておきます。
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伝統 (cooljapan)
2012-05-13 23:35:08
>無銘の作品とかも結構ありますし後世に名を残すという概念が薄いのでしょうか?

そうですね、西洋的な個人という意識で芸術制作をするのとはだいぶ違いますね。

「我」がなくなるところに本当の傑作が生まれるというような伝統が日本にはあるようです。
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Unknown (pu)
2012-05-14 01:39:42
日本の庶民が作る物の自由度はかなりありますね。
一神教は社会と思考まで宗教の影響が出てますが、日本はそれが少ない。だからと言って社会が自由かというと全くの逆です。
集団主義で社会は抑圧的な分、思考は解放的なのが日本の特徴でしょうか。
宗教が社会に無意識な所まで浸透してるのか、それとも宗教を必要としないほど社会が成熟したのかはイマイチ分からないです。
ただ元々社会がまとまってるので宗教の自由度が高く、それが創作の自由度の高さに繋がってる気はします。
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抑圧と自由 (cooljapan)
2012-05-15 10:04:58
puさんへ

>ただ元々社会がまとまってるので宗教の自由度が高く、それが創作の自由度の高さに繋がってる気はします。

大切な視点ですね。社会が抑圧的な分、思考・表現は開放的、そして社会がまとまっているから宗教による飼いならしが必要ではない。その分、表現が自由になる。私自身ももう少しつめてみたいテーマです。
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