12月17日 ベンガル湾か、インド洋か

2008年12月17日 | 風の旅人日乗
今、ボルボ・オーシャンレースに参加しているセーラーたちの間で交わされているブログを読むと、
『自分たちはクリスマスまでにシンガポールに着けるだろうか?
いや、どうしてもクリスマス前にシンガポールにフィニッシュしたい!』
という、熱情に近いような感情が彼らの思考の大部分を占めているようにみえる。

仏教徒である日本人セーラーが、
『4月8日(お釈迦様の誕生日、らしい。調べて初めて知った)はどうしても陸上で過ごしたい』、
と考えることはないように思えるが、
彼らのようにレースに出ることで生活の糧を稼ぐ西欧のプロフェッショナルセーラーにとってさえ、
キリスト教徒としてクリスマスを陸上で過ごすことは、何物にも代えて重要なことらしい。

なぜ、彼らがクリスマスまでにフィニッシュできるかどうかを心配しているのは、
インドのコチンからシンガポールに向かう第3レグのペースが、予想よりも随分遅れているからだ。
予想以上に不安定で弱い風に加えて、スリランカの南方には4ノット近い西流が流れていて、彼らをインドに押し戻そうとしている。
この西に流れる強い海流の反流を狙ってスリランカの岸に寄せたくても、
そこには海賊が待ち構えていて、それもできない。
実際にはレースコミッティーが、
それでも海賊めがけて岸に突撃していこうとするナビゲーターを縛り付けるために、
ポジション上の通過ゲートを設けていて、
そのゲートを通過するためには、スリランカの岸を離さざるを得ないように安全柵を設けている。

今朝のポジションを見てみると、テレフォニカブルーがただ1隻東に伸ばしてトップをキープしている。

他艇はみなタックしてスターボになって北に向かっている。
天気図によると、北には風が期待できる。テレフォニカブルーが向かっている東はこの先風が弱くなる。
テレフォニカブルーも、どこかでタックを返さなければならない。


これは12月15日から16日にかけて、各レース艇で記録された風速。
とても不安定なことが分かる。


これは、同じく風向の変化のグラフ。
風向が、北西から南東の間で、激しく変化している様子が分かる。


これは、ボートスピードの変化のグラフ。
風速のグラフと比べてみると、
例えばデルタロイドは、他艇よりも強い風を受けているときに、
その風速に連動してボートスピードが上がってないことがよく分かる。
セールチェンジをミスったか、クルーのサボタージュだろうか。

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リコール

2008年12月17日 | 風の旅人日乗
[写真は、ライケル/ピュー設計68フィート艇ベラメンテ]

全長98フィートのスーパー・マキシ、ワイルド・オーツやアルファ・ロメオなど、
大型のIRCレーシング・ボートの設計で、
最近の定番になっているデザイナーが、
アメリカ西海岸に事務所を置くライケル/ピューだ。

そのライケル/ピュー設計の最新設計艇数隻に対して、
ライケル/ピュー設計事務所自身が、顧客に対して『リコール』を自主的に提出し、
船体形状の大改造を加えていることが話題になっている。

『リコール』の対象には、今年進水したばかりの68フィート艇ベラメンテ、
65フィート艇マニーペニー、
そして建造中の69フィート艇アルファ・ロメオ、タイタン、ロキも含まれているという。

[ベラメンテ。この程度の風でここまでブームを落とさなければならない、
このことが、
この艇のセーリングで起こっているアンバランスを如実に象徴しているような・・・
この程度のヒールで、すでにラダーヘッドからと思われる波が出てきている]



[一時は福ちゃん(早福選手)やポール・ケアードも乗り組んだマニーペニー]


IRCレーティングでは、船体後半のボリュームとスタビリティーは計測されない。
従って、IRCを狙う艇のスターンの幅はどんどん広くなりつつあるし、
復元力も大きく(これは、外洋に出て行くクルージングボートとしてもありがたいことだが)設計されるようになっている。

船尾の船底形状にボリュームがあり、しかも大きなスターンの艇は、
ヒールすると後ろが浮き上がりやすくなる。
艇の前後トリムがアンバランスになるのを軽減するためと、
ヒールしてラダーの根元が水面に早く顔を出すのを防ぐために、
ラダーを前に持っていく、というのが一般的な解決策とされているが、
これがベストの解決策ではないことも、
IMOCA60の開発を通して指摘されている。

IMOCA60やボルボオープン70のように、ツインラダーにするという手もあるが、
IRCレーティングでは損だと考えられていて、使われにくい。

この、船体後半部の設計に、レース成績と操船に関わる大きな欠陥があったとして、
ライケル/ピュー事務所が、いくつかの最新デザイン艇のハル形状の改造を、
自ら申し出て、上記の艇のモディファイを進めている。
過去には、建造中に更新されたIMSレーティングに最適化させるためとして、
オラクルのラリー・エリソン所有の80フィート艇サヨナラ(ブルース・ファー設計事務所デザイン)が、
進水直後に船型の大改造を行なったことがあるが、その費用はオーナー負担だった。
今回のように、設計事務所が自らデザインの不備を申し出て、
自らの費用で数艇もの改造工事を行なうことは、恐らく前代未聞のことだろう。

今回のことで、ライケル/ピュー設計事務所の設計ミスを指摘する声は少なく、
逆に、この設計事務所の姿勢と心意気が、
関係者の間で高く評価されているような空気が感じ取られる。

現在第3レグをレース中のボルボ・オーシャンレースには、
ライケル/ピューが初めて設計したボルボオープン70のグリーンドラゴンが出場している。

(photo Rick Tomrinson/VolvoOceanRace)
準備不足とトレーニング不足が気になるチームで、
レース成績としての結果は残していないが、走りそのものを見る限り、
かなりのポテンシャルを秘めている(いい走りをするときは、別のヨットかと思うくらい速いが、それが長続きしない)。
今後のどこかのレグで、艇の性能を結果にしてあげて欲しいヨットである。


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