少し風がある。それでもそんなに寒いという実感はまだない。今日はお世話になった美術の先輩が家庭の事情で退任されるというので、仲間たちとささやかな感謝会をもった。いつも笑顔を絶やさず、的確な指摘をして新米のぼくらを上手に指導される。その指導にすぐ納得してしまう。
そんな別れる先輩はなんと２２年間も美術解説をされていたという。全くの驚きだ。「それじゃ、２０代から始めたのですか？」とジョークな質問をすると「そうよ！」と返ってくる。もちろん引退するには早すぎる。それでもきっぱりと自らのけじめをつけ、今まで保存していた高価な美術本も後輩たちに分かち譲っていた姿はとても微笑ましいし、ご立派だ。
ぼくは最後のお礼の言葉を述べよ、指名されたのでこの先輩から初めに言われたことを反芻し、常にそこに返る姿勢で続けたいと話した。なんでも初めがある。だから今がある。河の流れは常に川上の清流があることを覚え、この先輩の厳しくも優しさのこもった３年程度の厚き教導に思いを残したい。今日はいい日だった。
やさしいタイガー