先日市電に乗っていたらぼくの前の席が半人分ほど空いた。手すりに寄りかかっているぼくくらいの年齢のご婦人が立っていたので、「どうぞ」といって身体を支えて席に導いた。互いにもう少し気遣って譲ればゆっくり座れるのに回りはみんなそ知らぬ顔したお年寄りばかり。それでもその隙間のようなところに座り、「やれやれ」といった表情で軽くぼくに笑顔の挨拶を送ってくださった。
ぼくより手前の電停で降車されたが、そのときにもきちんと挨拶をしていかれた。次の駅でぼくも降りた。車内はもうどこでも座れるくらいに空いていた。向き合う座席に座る人々は何を見るともなく正面を向いている。まるで放心したように。しかし隣の人にちょっとした心遣いが出来たら、もっと人間の品格が上がるのだがと思ってしまう。
やさしいタイガー